前回の本コラムでは、日本がアジャイルな活動をできない要因を考察し、解決策として“変容”の流れを作ることを推奨した。しかし、その変容ができない姿があちこちで見られる。容易に変容できない日本の実態を観察して、より踏み込んだ課題解決の提案をしたい。
リモートからオフィス勤務に戻る企業が増加
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大における国内の第1波(2020年3月~6月頃)のときは、国民の危機意識も高まり、政府も「人と人との接触を最低7割、極力8割削減」や小中学校の全面休校など強いメッセージを打ち出した。多くの企業はリモートワークに切り替えるべくにわか作りの環境を用意し、Web会議システムやクラウドサーバーなどで急場を凌いだのがこの時期だった。
正体不明な疫病への恐怖や上記の取り組みから、人流は8割以上減って、東京・銀座の夜はほとんど人と遭遇することさえなかった。この現象は明らかに“変容”と言え、変化ではなかった。加えれば、それでも、業務文書の押印処理などのために出社する社員がいることが指摘され、ハンコレス=印鑑廃止の動きが出てきた。これも変容の流れの1つである。
続く第2波(2020年7月~10月頃)、第3波(2020年10月~2021年2月頃)と重ねるうちに、国民の気の緩みや若者の感染が少なかったことから人流の抑えが効かなくなっていった。政府も緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を繰り返し発出し、飲食業の営業制限をする以上の対策は打たれない。店舗で酒が飲めなければコンビニで酒を買い路上飲みをする。反則金を払っても深夜営業する店舗が出てくる。こんな環境の中、2020年の後半以降は、明らかに通勤者が増えていった。これは変化だ。
今も毎日のようにテレビのニュースで朝晩の通勤風景が映し出される。首都圏の場合、ほとんどが東京・品川や新宿、渋谷、新橋などのターミナル駅なので、定点観測のように状況がわかる。筆者自身、たまに事務所に出かけるときに利用する交通機関や駅の混雑状況から、通勤者の増加を体感している。リモートワークからオフィスワーク、つまり出社に戻った会社が増えたということだ。リモートワークに耐えられない会社が変化していったのだ。
理由はさまざまだろうが、決してリモートワークしている社員からの要望ではないだろう。推測される1番の理由は、古い観念から離れられない管理職層がリモートコミュニケーションを取れずに所在がなくなり、仕事が回らなくなった。あるいは評価制度もオフィスワークを前提とする曖昧なままなので、社員の評価さえできなくなってきたのではないだろうか。
そんなことが重なって、感染者が増えようともリモートワークには戻らなかった。そして、かつてなかったほどの感染者が出て、医療逼迫が顕著になる第5波を迎える。その始まりは2021年7月中旬で、東京都に4回目の緊急事態宣言が発出されたのが7月12日。期限も8月22日、8月31日、9月12日、9月末とたびたび延長された。
4回目の緊急事態宣言下ではオリンピック・パラリンピック開催や夏休み、盆休みなど人流が増える要素が何かとあり、医療逼迫に伴って在宅療養という名の自宅待機を強いられる感染者が激増した。基礎疾患のない若い人が在宅のまま死亡するニュースが流れても、通勤者が激減する様子はない。
政府は「リモートを7割にして人流を5割に抑えたい」としたが、市中の様子はどこ吹く風の状態だった。それでも8月中下旬をピークに感染者数は減少期に入り、第5波としてはようやく落ち着きつつある。多くの学者の予測は外れ、シンメトリックな波を繰り返す。だれも適切な説明はできていない。この不可解さがCOVID-19の姿なのかもしれない。
●Next:変容できない日本を象徴するようなテレビCMが流れた
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