「アジャイル」は時折、闇雲に使われたりもするが、本誌読者の多くにとってかなり馴染みのある言葉だろう。収まらぬコロナ禍の中で、一向にアジャイルにならない物事や組織が目について仕方ない。そんな思いをしているのは筆者だけではないだろう。
アジャイル(Agile)と言えば、システム開発手法としてのそれを思い浮かべる人が多いかもしれない。開発手法としてのアジャイルは古くから歴史があるが、2001年にアジャイル開発の考え方と12の原則を定めた「アジャイルソフトウェア開発宣言」がまとめられ、概念が統一されてから採用も進むようになった。背景にはビジネス速度とそれを支えるITシステムの開発速度がマッチングしなくなり、ウォーターフォール開発手法一辺倒から併用するようになったことがある。
この流れからノーコード/ローコード開発のツール提供も増加し、システム開発の内製化を促す要因になった。内製化は外注との切り分けや発注のスキルレベル向上やベンダーマネジメント向上にも役立っている。こういったソフトウェアのアジャイルも重要だが、ここで指摘するのは、社会運営や企業活動に必要な要素としてのアジャイル、アジリティ(Agility:俊敏性)である。
コロナ禍で見えてしまった決断や対応の遅さ
収まらぬコロナ禍の中で2021年7月12日、関東1都3県に4度目の緊急事態宣言が発出された。期限は度々延長され、本稿執筆時点(8月)では9月12日までになっている。対象も13都府県に拡大されたが、感染拡大はピークアウトせず先が見えない状況である。
コロナワクチン接種は進みつつも、20代や30代の若年層の感染が増え続ける。10代の感染も顕著に増加し、過去最大の第5波の波を招いてしまった。これに対して政府は先手を打ったという。だが、飲食店や酒類販売業の締め付けばかりで人流を止める政策に工夫がなく、とても先手を打ったとは思えない。
緊急事態宣言や「まん延防止等重点措置」の扱いも同様だ。政府と専門家会議と自治体の一体感がなく、常に責任回避の綱引きをやっているように映る。決断は遅いし、迅速な処理がされている感はないに等しい。
ワクチン接種の展開についても、国はワクチンの調達と供給だけで、予約や接種はほとんど自治体任せだ。自治体の対応の差は大きいし、自治体から予約券が届かないと接種は受けられないので、65歳未満の対象者拡大の時期にはその差がますます顕著に出てしまった。
接種を加速させたい政府が思いつきのように稼働させたのが、政府直営の東京と大阪の大規模接種センター。これらでは運営を任された自衛隊だけでは賄いきれず、不足する看護師の調達や運営そのものを民間に随意契約で委託する始末だ。発想と決断はアジャイルと言えなくもないが、計画性のないままバタバタの展開となってしまった。
挙げ句にワクチンの供給が不足して、予約を中止せざるを得ない自治体が続出し、職域接種も止まってしまった。政府は市中在庫が滞留しているような説明をしたが、仮にそうなら在庫管理さえきちんとできていないことになる。実態は製薬会社と契約した量のワクチン入荷が遅れていることも見えてきた。自国のワクチン開発が遅れて他国に依存しなければならないことも残念だが、すべての対応が後追いで場当たりのように見える。いや、それが事実だろう。
一方で、直前まで方針をはっきりさせなかった東京2020オリンピック・パラリンピックを開催した。大方の民意は中止か延期を求め、開催しても無観客を望んでいるにもかかわらず、頑なに開催に固執する政府にオリンピック組織委員会も同調せざるを得ず、開催の意義ばかりでなくどのような内容で開催するかについても、共に的を射ない苦しい答弁が続いた。開催会場を有する自治体は無観客開催へと一気に傾斜し、スポンサーも積極的な参加を拒み、起用人材の不祥事も続いて開催前から実に盛り上がりのない異例のオリンピックとなった。
7月23日より始まったオリンピックの開催中からコロナ感染の拡大は止まることなく、非常事態宣言の効果はまったく感じられない。感染爆発と言えそうな状況にあってもこの巨大イベントを開催する矛盾に国民の緊張感は喪失し、市中の人流は止まらない。医療体制もさほど強化されないままで限界に達し、多くの感染者が「自宅療養」という名の「自宅待機」に放置されている。
以前からロックダウン並みの強い規制や、野戦病院のような形態の臨時病床を増設して自宅療養の放置から早期治療へ改善を求める声が出ているが、「災害級」という認識を示しながら、いまだに具体的な行動には至っていない。これら一連の決断のなさや対応の遅れはずっと続く病質のようなものだが、コロナをきっかけにまざまざと見えてしまったのだ。
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