[市場動向]

ビジョン・取り組み・事例が示す、日立「Lumada」の現在位置

2022年3月30日(水)奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)

本誌読者なら、日立製作所の「Lumada(ルマーダ)」をご存じの方は多いだろう。ただし、何か壮大なイメージがあり、カバーする領域や要素技術については実のところ見えにくいという声も聞く。Lumadaは現在、日立においてどのような位置づけにあり、ユーザーにどんな価値を提供しているのか。本稿では、その進化過程を振り返りながら、Lumadaの今のビジョンと提供するソリューション、成果としての事例を確認してみたい。

 日立製作所の「Lumada(ルマーダ)」──その現在の姿は、企業・組織に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)推進支援のビジョンであり、プラットフォームである。そして日立自身にとっては、Lumadaは成長エンジンと言えるかもしれない。2016年5月にIoTプラットフォームとして始動して以降、2018年度には事業の売上高が1兆円を超え、2020年度実績では事業ポートフォリオにおいて日立全体の8分の1を占める中核事業にまで成長しているという。

 そもそも、Lumadaという名前はどこから来ているのか。日立によると、「Illuminate(照らす・解明する・輝かせる)」と「Data(データ)」を組み合わせた造語である。社会や顧客のデータに光を当て、輝かせることで、新たな価値を引き出し、課題解決を踏まえた社会イノベーションの創出を目指している──キラキラした言葉が並んでしまったが、そういった思いが込められているようだ。

 Lumadaのビジョンとして日立が強調するのが、「協創」の言葉に象徴されるオープンイノベーションだ。Lumadaを基軸に、多様な事業領域の顧客やパートナーを包含したエコシステムを構築している。日立によれば、そこに蓄積されたユースケースは1000件を超えているという。

日立におけるLumadaの位置づけ

 Lumadaは2016年5月、「IT×OT(Operational Technology:制御運用技術)」のIoTプラットフォームブランドとして登場した。その2年後の2018年4月、日立は事業単位で大きく括った従来のカンパニー制から、機敏な動きが可能になる小さなビジネスユニット(BU)に分割するという組織再編を行った。現場(フロント)、プラットフォーム、製品(プロダクト)を分割し、BU間の緊密な連携で事業を推進する体制だ。

 この組織再編により、Lumadaのポジショニングはより明確になっているという。日立の2021年中期経営計画においてLumadaは、「IT×OT×プロダクト」でその解決策を提供する推進エンジンの役割を担う。そして、先の組織再編に伴い、各BUにChief Lumada Business Officer(CLBO)を配置して、全社でLumadaの活用を加速させるようになっている。図1は日立が描く「価値協創プロセス」だが、Lumadaを価値創造の源泉であり競争優位性のあるものと位置付けていることがわかる。

図1:価値協創プロセス(出典:日立製作所)
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 今回、取材に応じてくれた日立製作所の伊藤洋三氏(写真1)は、全BUの横串組織であるサービス&プラットフォームBUのCLBOである。各BUのCLBOと連携しながら、各施策の実行スピードを加速させる役割を担っている。

写真1:日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Chief Lumada Business Officer(CLBO)の伊藤洋三氏

 「日立が現在メインで取り組む社会イノベーション事業の領域では、もはや簡単に解けるような課題は残っていません。これまでのプロダクト延長線上の事業だけではダメで、イノベーションがないと解けないのです。我々のデジタル技術やモノづくりの経験で積み重ねてきたオペレーションを含むノウハウをLumadaに貯めて、掛け合わせていく。このことで、はじめてイノベーションが起こせると考えています。その司令塔となるのが各BUのCLBOとなります」(伊藤氏)

 近年の日立は、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指し、M&Aも積極的に行っている。2020年7月には、EUを中心にエネルギー・産業用ロボット分野で牙城を築くスイスABBグループのパワーグリッド事業を融合し、日立ABBパワーグリッド(現・日立エナジー)を設立。2021年8月には、世界的にも評価が高いフランスの防衛・航空宇宙/IT大手タレス(Thales)グループの鉄道信号システム部門を買収。いずれも、Lumadaのグローバルオペレーションの強化がねらいだ。

 前者では、Lumada上で日立エナジーが有するソフトウェアモジュール群を活用して、OT/ITデータと統合したエネルギーソリューションを生み出している。将来的には、洋上風力などでの発電を高電圧の直流で効率的に大量送電する行うHVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)分野をも視野に入れている。後者では、Lumadaをデジタルエンジニアリングのエンジンとし、鉄道領域におけるMaaS(Mobility as a Service)を推進し、この分野でのアドバンテージを高めようとしている。

 「世界が抱える課題は複雑かつ多様で、日立だけでは解けないため、さまざまな形でのアライアンスが必要です。例えば、鉄道はエネルギー効率にすぐれた移動手段として環境配慮に貢献できる事業です。また、欧州の都市の電動・EV化のような動きも含めて、その貢献に向けた取り組みに積極的に参加しています。それだけに、M&Aで仕掛けていくにしても、社会貢献を基軸に同意を得ながら力を借りていく形で進めていかなければなりません」(伊藤氏)

 そして2021年3月には、米カリフォルニア州サンノゼに本拠を置くデジタルエンジニアリングサービスのリーディング企業、グローバルロジック(GlobalLogic)の買収を発表。買収総額96億米ドル(2021年3月時点で約1兆368億円)という巨額の投資が話題になった。同社の買収に伴い、Lumadaはエクスペリエンスデザインの要素も獲得している(関連記事日立が1兆円で買収する米グローバルロジックはどんな会社なのか?)/「高値づかみ」の意見は承知の上? なぜ日立は1兆円で米グローバルロジックを買収したのか)。

 海外でグローバルロジックが豊富に蓄積した、DX支援の実績をベースに、プロフェッショナル人材によるDX戦略策定、チップからクラウド(Chip to Cloud)に至るソフトウェアエンジニアリング技術、高度なエンジニアリング手法に基づいたアクションのスピード向上などをLumadaにもたらしている(写真2)。

写真2:「Lumada Innovation Hub Tokyo」を活用したグローバルロジックとのワークショップの様子(写真提供:日立製作所)

 グローバルロジックは、日立のIT、エネルギー、モビリティ、ライフ、インダストリーの5セクターと、日立Astemoを核とするオートモティブシステム事業とのシナジーにより、鉄道、エネルギー、ヘルスケアなど、社会インフラに直結するミッションクリティカル領域のDXに寄与している。

 日立の社会イノベーション事業に欠かせないのが、現場のデータをAI/IoTなどを活用して経営や事業の課題を解決するデジタルソリューションである。Lumadaの中でもコアの位置づけにあり、日立は同ソリューションの提供を通じて、現場の製品やシステムを含めて継続的に進化させている。

 例えば、鉄道事業における鉄道車両の一括保守サービス。車両など(プロダクト)から データ収集(OT)して、分析・活用(IT)することで、故障発生を抑えて稼働率を高めている。製造業においても同様だ。工場内の機器・設備(プロダクト)から、それらを動かし制御するシステム(OT)、経営管理を行うシステム(IT)まで、製造業の顧客の生産性や品質向上、バリューチェーン全体の最適化を支援している。

 そんなLumadaの核となるコンセプトが「協創」だが、実現への道は決して容易ではなかったという。挑んだのが「NEXPERIENCE(ネクスペリエンス)」と呼ぶ、多数の顧客とのプロジェクトを通じて蓄積してきた「手法・ツール・空間」の体系化だ。そこには、顧客やパートナーとの関係構築から、アイデアの発案を踏まえた価値創造、サービスや仕組みとして社会実装するまでの協創プロセスに関わるメソッドが網羅されている。

 そもそも日立は、クリエイティブな発想力に富んだデザイナーと、工学的アプローチに基づきロジカルに先進的な仕組みやサービスを設計する研究者を豊富に擁している。両者によるコラボレーションが、2015年の「東京社会イノベーションセンタ」の発足を契機に進展し、それぞれの切り口から新しいビジネスを生み出す手法へと昇華させてきた。NEXPERIENCEは、それらの手法の融合・体系化に注力してきた歩みに裏づけられている。

 こうした取り組みのうえで日立は、「Lumada Innovation Hub」「Lumada Solution Hub」「Lumada Alliance Program」といった施策で協創を推し進めてきた。協創の起点となるのが「Lumadaアライアンスプログラム」で、これは社会価値・環境価値・経済価値およびQoLの向上に寄与するイノベーションの協創を目的としたパートナー制度である。

 Lumada Innovation Hubは、東京駅直結の「Lumada Innovation Hub Tokyo」をフラグシップ拠点とし、顧客やパートナーをはじめ、業種・業態の枠を越えたステークホルダーをバーチャルとリアルの両側面からつなぎ、知恵やアイデアを掛け合わせることを実践している。また、Lumada Solution Hubは、Lumadaにおけるノウハウ・知見の集積機能を担う。ここに協創を通じて蓄積してきたテクノロジーやソリューションなどが集められ、この仕掛けを各者が活用可能にして、協創のスピードアップを図っている。

●Next:ダイキン工業のデジタルトランスフォーメーション

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