株式の売買経験がない人でも、「損切り」という言葉は知っているはずだ。念のために説明すると、購入した株の価格が下がったとき、含み損が生じていても売却して損失を確定することを指す。この損切りを適切にできないと致命傷を起こす。それが国の制度や民間企業の経営でも起こっている。
株の売買で重要な「損切り」
損切りは、ロスカット(英語ではcut loss)とも言われる株式売買の重要な判断行為だ。現物株を長期保有しているなら、そうせずに次の上昇の機会を待ってもいい。だが当分は上がる見込みがなく、資金を転用したい場合には損切りをして次の投資に資金活用をする。
信用取引をしている場合には、損切りはもっと重みを増したものになる。信用取引は預けている担保(現金や株式など)の約3倍まで取引ができるので(レバレッジをかけるという)、うまくいけば大きな収益を得られる。相場が下がっていても空売りして上がったら買い戻すこともできる。半面、リスクも大きくなるので、許容できる範囲にリスクを留める損切りが重要なのだ。
さらに、約20~30倍のレバレッジをかけることができる先物取引はいわずもがなである。信用取引よりも大きな収益を期待できるが、損失リスクも大きい。株価が下がり、保証金が不足すると仲介している証券会社から追加証拠金=追証(おいしょう)を求められる。期日までに支払いができない場合、強制的に決済されたうえに高い売買手数料を支払うことになる場合もある。
株式では買う時よりも売る時が難しい。このことは実際に売買するとよく分かる。利益が出ていると欲が出るし、儲け損な痛みを避けたいので、売って利益を確定できない。損失が出ていればなおのこと、冷静さを欠く。レバレッジがかかっていれば損失も大きくなるので、痛みは大きくなる。根拠のない株価反転に期待して損切りができないまま、自滅する例はたくさんある。
現物株でも同じだ。含み損を抱えたままいることは精神的によくないばかりか、含み損をさらに拡大させることもある。それなのに損切りができずに、先送りして塩漬けにすることがある。たらればで振り返っても後の祭りになるのだ。
国も民間も損切りできずに傷を深めている
株式売買の損切りと同じようなことが、国の制度や民間企業の経営でも起こっている。それは、最近の日本銀行の政策に顕著に現れている。世界各国の中央銀行が金利を引き上げる決定をしている最中の2022年6月16日、日銀総裁は政策金利を低金利のまま継続するという、流れに逆行する発表をした。副反応で円は売られ、米ドルが買われて、為替相場は24年ぶりに136円を超える円安・ドル高になった。輸入品はじわじわと消費者物価に反映されて生活消費に影響を与えつつある(画面1)。
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景気がよくなり物価が上昇してくると、どこの国でも中央銀行は過剰なインフレを抑制するために政策金利を上げる。米国は消費者物価が8%を超える急カーブで上昇している。日本は景気がよくないのに物価が上昇していて賃金は停滞している。
2015年に、米国の経済学者でノーベル経済学賞を受賞しているポール・クルーグマン氏が、日本はスタグフレーション(経済活動の停滞とインフレーションが同時進行する状態)に陥りつつあると言った。その予告どおり、物価上昇はまだ2%くらいとはいえ、これから先も上がり続けるスタグフレーションになってしまった。
利上げをすれば景気は後退し、日本政府の膨大な国債発行による借金の金利が増えてしまい、財政が成り立たなくなる。その国債を大量に保有している日銀には評価損が出る。企業も個人の住宅ローンの借り入れも低金利前提で成り立っていることから、利上げすれば破綻する会社や個人が出てくることも避けられない。にっちもさっちも行かない状態になっている。
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