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[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

住宅地にも環境配慮の工場建設が可能に─ドイツの超高効率プロジェクトが目指すもの:第41回

2023年5月8日(月)麻生川 静男

昨今の企業経営では、地球温暖化や海洋ゴミに代表されるような環境への配慮が強く求められている。加えて、米国をはじめとして世界的に製造過程における人権侵害に対しても厳しい眼が向けられるようになってきた。環境と人権は、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の核となる観点であり、企業経営の主軸の転換の要請にほかならない。これからの企業は、環境と人権の社会的責任に応えながら事業存続の収益を追及していく必要がある。その1つの方策がドイツが産官学で推し進める「超高効率」プロジェクトだ。

超高効率プロジェクトの理念

 ドイツは以前から環境問題に対する国民全体の関心がきわめて高い。多くの企業が収益追求もさることながら、環境問題に対して真摯に対応しようという意識を持っている。そうした中で、概念レベルではなく、実用レベルで環境問題を解決しようとする「超高効率(Ultraeffizienz)」なるプロジェクトが進行している。効率と聞くと経済的な観点を思い浮かべがちだが、ここでの意味はそうではなく、次の3つを同時に実現しようとする趣旨だ。

●製造原材料を最適に利用する
●製造過程の循環を完結させる
●環境への負荷を抑える

 つまり、ドイツが推し進める超高効率とは、「快適な生活環境を保ち、自然と共生して、ゴミを出さない製造を目指す」ことだ。それだけでなく、従業員に快適な労働環境を提供することも観点に含まれている。

 従来、住宅街に製造工場を設置するのが難しかったのは、製造過程で大量のゴミ(廃物)や排ガス、汚染物質を出していたからだ。これを改めて、ゴミや排ガス、排水をなくし、循環系システムに刷新することで、住宅地にも工場を設置可能とし、職住近接を実現しようとしている。

 さて、ドイツの主要産業と言えば自動車だが、その本拠地の1つが南西部にあるバーデン=ヴュルテンベルク州だ。州都はシュトゥットガルトで、メルセデスベンツのダイムラー(Daimler)とポルシェ(Porsche)の創業地として有名である。

 ご存じの人も多いだろうが、ドイツの各州は強力な行政能力を有し、独自の産業活性策を立案、実行している。今回紹介する「超高効率工場」もその1つで、バーデン=ヴュルテンベルク州がフラウンホーファー研究所と大学・教育機関(シュトゥットガルト大学、キャンパスはシュヴァルツヴァルト)などと組んで立ち上げた。州政府からの資金は約200万ユーロ(約3憶円)と僅かだが、到達目標は極めて野心的だ。

 2023年2月末時点で、ちょうど検証実験の第一フェーズが終わったばかりである。以下、その様子を報じた、「elektrotechnik」などのドイツの現地メディアからかいつまんで紹介しよう。

デジタルツインで効率性を常時把握

 報道によると検証実験は、フラウンホーファーIPA(生産技術・自動化研究所)と90km離れた所にある工場を結んで行われた。工場には木材加工設備、プレス設備、射出成形機、梱包設備などのほか、将来的には組み立て作業を行うロボットも備えられる予定だという。

 IPAでは、現地工場をメタバースの仮想空間で再現している。つまりデジタルツインである。設備ごとにエネルギー消費量、生産高、CO2排出量、不良品量、加工廃棄物量などのデータをリアルタイムで表示し、これらの指標から工場の設備の効率性を常に把握することができる(画面1)。

画面1:現地工場をメタバースの仮想空間で再現(出典:フラウンホーファーIPA YouTubeチャンネル)
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 また、仮想空間ではなく現実の設備を遠隔地から監視、操作できる「超効率工場のためのハイブリッドセンター」を設立した。目的は、資源の無駄をなくすために生産設備を全体で調整すること。同センターには、フラウンホーファーの2つの研究所であるIPAとIAO(生産工学研究所)が参画している。

 現在、実証実験で得られたデータを使って、機械のメンテナンス頻度や交流モーターから直流モーターへの切り替えなどによって、ダウンタイムや排ガス量がどの程度変化するかの検証フェーズに入っている。

 検証にあたってIPAとIOAは、エネルギー、材料、排ガス、組織、人的資源の5項目を重点課題として定めた。これらのうちエネルギー、材料、排ガスは、センサーからのデータに基づいて、計測したデータを指標化し、最適化することができる。

 一方、超効率化のためには組織の業務も計測、指標化して最適にする必要がある。このための指標にOEE(Overall Equipment Efficiency:設備総合効率)がある。また、人的資源に関しても労働環境が与える影響を測定して労働効率を測定する。例えば、現在は騒音レベルや温度を測定しているが、将来的にはウェアラブルの測定装置を身に着けることで作業者の精神面のストレスを測定する計画という。

すでに2016年の段階で構想が完成

 フラウンホーファーIPAの超高効率工場に関して動画が制作されている(動画1)。自動翻訳表示を使いながらどのような内容であるかを大まかにつかむことができる。


動画1:超高効率工場とは?(出典:フラウンホーファーIPA YouTubeチャンネル)

 また、ドイツのタレント・コメディアンで物理学者でもあるビンス・エーベルト(Vince Ebert)氏がわかりやすく説明している動画もある(動画2)。


動画2:都市環境における超高効率工場(出典:ビンス・エーベルト YouTubeチャンネル)

 超効率化工場の構想自体は新しいものではなく、2016年11月刊行の書籍『besser lackieren. Jahrbuch 2017 Paperback』でも詳しく解説されている。2021年1月に欧州委員会はドイツが公表したIndustie 4.0の先を行くIndustry 5.0を発表したが、そのキーコンセプトである人間中心、持続可能性(サステナブル)、回復力(レジリエント)をドイツではすでに2016年の段階で先取りしていたことがわかる。つくづく、ドイツの環境問題への取り組みが先進的かつ戦略的であり、日本の遥か先を行っていることがわかる。

●Next:日本のIT産業が目指すはGAFAMのような突出企業の創出ではない

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