[木内里美の是正勧告]

デジタルタトゥーに気をつけろ!

2023年9月26日(火)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

本人の意思とは別に、インターネット上に不名誉な情報が残り続ける「デジタルタトゥー(Digital Tatoo)」がよく話題になる。誹謗中傷や悪ふざけ、逮捕歴などの情報がデジタルタトゥーになってネットに残り続け、その後の評判・信用や就職、恋愛・結婚などで不利益を被るというものだ。事態は、言葉の由来となった物理的なタトゥーよりも数段厄介である。

タトゥーを嫌う日本文化はいつからか?

 日本のタトゥー、つまり入れ墨(刺青とも)は、時代ごとに翻弄されてきた歴史がある。古くは縄文時代に遡り、埴輪とか土偶にタトゥーと思われる痕跡が残っていると言われる。アイヌや奄美の人たちもタトゥーを入れていたのは周知のことだ。衣服に関心が移った平安時代や鎌倉時代にはいったん静まったが、江戸時代になって再燃し、タトゥーの花が咲いた。事実、多くの浮世絵に全身にタトゥーを入れた男の絵柄が描かれている。

 江戸時代のタトゥーは「粋」の象徴のようだった。鳶や火消しなど勇ましい仕事人が好んでタトゥーを入れていた。武家では、親から受けた身体を傷つけることは親不孝という儒教思想からタトゥーは忌避されていたようだが、一般庶民はタトゥーを好み、腕のよい彫り師もたくさんいた。全身に彫り込むタトゥーはアート作品そのものである。一方では、江戸中期の頃に犯罪抑止を目的に入れ墨刑が行われていたこともある。

 明治に入って開国されると、環境が様変わりする。1873(明治5)年に文身禁止令が出され、警察の取り締りや刑罰の対象になってしまったのだ。文身とは入れ墨、タトゥーのことである。その間に彫り師たちは海外に逃れたりしていたらしい。文身禁止令は1948(昭和23)年に、第二次大戦後にGHQ占領下で廃止されるまで続いた。75年間の禁止によって、すっかり悪者扱いになってしまった。それがタトゥーを嫌う日本文化の根底にある。

 もう1つの要因は、タトゥーが盛んだった江戸時代に任侠(弱きを助け、強きをくじく男気)を信条とする狭客が好んでタトゥーを入れていた。侠客は尊敬の念を込めて極道者(その道を極めたもの)とも呼ばれていたようだが、後になって意味が逆転し、極道もヤクザも同一視されて暴力団や反社会的勢力となってしまった。

 そういう人たちが威嚇の意味を込め、組織への忠誠心などでタトゥーをするようになったことから、タトゥーそのものが嫌われ者になってしまった。今でも銭湯や温泉やプールなどで、タトゥーをしている人を入場禁止にしている施設が多いのはその理由からだろう。

 これは歴史的な背景からの明らかな偏見でしかない。海外に目を向ければ、欧米人の多くはタトゥーを好んでしている。タトゥーはファッションであり、アートを楽しむものとして扱われ、2、3人に1人は入れていると言われる。ニュージーランドの警察の95%がタトゥーを入れているという話もある。

 コロナの制限が解除されて、多くのインバウンドが日本を訪れるようになった。腕や足にタトゥーを入れている外国人をよく見かける。案の定、銭湯や温泉やプールでのトラブルが多発しているが、観光庁も自治体もインバウンドへの配慮をするように呼びかけている。

海外では文化、ファッションとしてのタトゥーが定着している(写真:Getty Images)

 日本でも小さなタトゥーを入れている若い人を見かけることが増えてきた。多くは入れ墨と呼ばれる真皮に色素を入れるものではなく、アートメイクと呼ばれる表皮に色素を注入するものや、ヘナやインクボックスと呼ばれる染料で表皮を染めるもので、新陳代謝や自然劣化などによって数週間で消えてしまう“フェイクタトゥー”と呼ばれるものである。ファッションと考える若者が増えていけば、一方的に忌み嫌われることもなく、タトゥー文化を受け入れるようになることだろう。これもダイバーシティと考えればよいことである。

ネットの世界で残り続けるデジタルタトゥー

 インターネットが普及しデジタル社会になると、個人がSNSやブログや掲示板などから容易に情報発信できるようになった。個人が意図しなくても、ネットショップなどを通じて個人情報や購買履歴などが収集、蓄積されるし、クルマに搭載された機器からプローブデータが収集されて位置情報や行動履歴が可視化される。空港での顔認識や金融機関での指紋とか静脈情報や視聴や閲覧の記録も蓄積されていく。

 GPSアプリを使えば、行動履歴や行動パターンも収集蓄積される。さまざまなインターネット上の情報は容易には消せないことからデジタルタトゥーと呼ばれるようになった。まして漏洩や拡散されてしまうと始末ができない。アルバイト店員や飲食店の客が不正な行為を不用意に発信してしまって、拡散炎上して発覚し多額の損害賠償を請求されるような事件も起こっている。

 タトゥーもレーザーや手術で除去を試みる人もいるようだが、完全に綺麗に消えることはない。デジタルタトゥーはもっと執拗で、インターネットで拡散された情報はなかなか消せない。元の情報を消しても、だれかがスクリーンショットしていたら情報は残り続ける。デジタルアーカイブはいろいろな形でいろいろな所に存在すると考えたほうがいい。意図的に消そうとしている行為が悟られると、当事者にとって不都合な拡散が増えるストライサンド効果という現象が起こる。人類に共通の心理メカニズムであることから、阻止することができないのだ。

 もちろんインターネットの仕組みでは、SNSにしろ、ブログにしろ、掲示板にしろ、いずれかのプロバイダーやサービス事業者を通じて情報が公開されているので、専門の法律事務所などを通じて運営元に要請すれば削除されることもある。しかし拡散されてしまうと追跡は容易ではなく、費用も莫大になる可能性がある。理屈では可能ではあっても、完全に消すことがほぼ不可能なのがデジタルタトゥーなのである。

●Next:デジタル時代に求められるリテラシー

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