[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

「デジタル」と「正義」を考察する

ふるかわデジタルクリニック 代表 古川昌幸氏

2024年3月12日(火)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、ふるかわデジタルクリニック 代表の古川昌幸氏によるオピニオンである。

 読者の皆さんは、どれくらいの頻度で金融機関のATMを利用しているだろうか。筆者は2、3カ月に一度くらいに減ってしまった。コンビニなど店舗での支払いはクレジットカード、電車やバスの乗車ではSuicaやPASMOなどの交通系ICカードを使う。飲み会で割り勘する時も、電子マネーのPayPayなどで精算することが増えた。現金を使う場面が激減したのである。

 つまり、現金社会からキャッシュレス社会にステージアップしたおかげで、我々は現金を持ち歩かなくても日常生活の大半を過ごせるようになった。これを支えているのは、口座残高記録が信用できるからであり、具体的にはデジタル技術を利用して残高データの改竄防止や資金移動のデータの記録の透明性が担保されているからである。

 キャッシュレスによるこの仕組みを生かせば、2023年末から世間を賑わせている自民党議員のキックバック不記載問題も解決できるかもしれない。政治の世界では、今も紙の収支報告書や現金で受け渡しを行う現金社会が続いているから不記載問題が生じる。政治家の方々にキャッシュレス社会への移行を迫ることは、アナログな世界にデジタル化による「正義を行う」ことと言えないだろうか。

企業におけるDXやデジタルは、だれにとっての正義か?

 ここからが本題である。上記で「正義」という言葉を使ったが、改めて正義という言葉の意味を調べると、一般に個人や小規模な集団において倫理的な善悪の価値観にもとづく原則や行動を指す道徳的な意味合いを指す、とある。一方、「社会正義」という言葉もある。こちらは社会全体の構造や仕組みに焦点を当て、不平等や差別を減少させることを目指す、とされている。

 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みに目を向けると、デジタルが「正義」でアナログは「悪」であるという単純な構図が描かれがちである(「正義の反対語は悪ではない」という議論はひとまず置く)。しかし、このような「正義」には注意が必要である。

 実際、多くの企業の経営層、特にCIOやCDOはデジタルを“錦の御旗”としてDX施策を進めており、大半の社員は「DXを推進しなければ人に非ず」のような同調圧力にさらされる。現実には、なかなかうまく行っていない企業が多いし、「DXといっても何をすればよいのか」といった声が多いのはご承知のとおりである。本当にデジタルは正義なのだろうか。

 デジタル化だけでは成果に結びつかず、適切な課題設定とデジタル技術の正しい利用があってはじめて成果につなげることができる。やみくもにRPAを使うのではなく、プロセスを可視化したうえで適所にRPAを適用するようなことだ。そのためには人間のアナログな感性、倫理観も重要である。これを疎かにすると無駄な業務が温存されるだけでなく、プライバシーの問題やSNSでの誹謗中傷などの社会問題に発展し、大きな代償を支払うことになる。

 企業は社会や事業の構造や仕組みに焦点を当て、DXによって社内を含む情報システムやサービスの利用者に対して、利便性の向上や不平等の解消を追求すること、大袈裟に言えば「デジタルで社会正義を行う」ことが求められる。それは単純にデジタル化に邁進するのとは違うはずである。すなわち、道具であるデジタル技術を利用する側の組織や人の中に正義があるか否かが本質的な問題であろう。

●Next:不透明な時代における企業の最優先課題とは

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