[技術解説]

魚市場から生まれた水産流通プラットフォーム「UUUO」、Rubyで迅速開発─ウーオ

Ruby開発最前線─Ruby bizグランプリ2023大賞サービスを紹介(2)

2024年4月4日(木)Ruby bizグランプリ実行委員会

日本発のオープンソースのプログラミング言語「Ruby」と、その開発フレームワーク「Ruby on Rails」。これらを用いて開発されたアプリケーションやサービスは数多あるが、その中から、特にすぐれたものを表彰するのが年次アワードプログラム「Ruby bizグランプリ」だ。本稿ではRuby biz グランプリ2023の大賞に選ばれた2つのサービスのうち、水産流通プラットフォーム「UUUO」(開発:ウーオ)を紹介する。

Rubyのすぐれたビジネス事例を表彰するアワード

 Rubyは、生産性を高めるフレームワークRuby on Railsと共に、世界の多くの開発現場で使われているオープンソースのプログラミング言語である。その普及を促進するために2015年に始まったのが「Ruby bizグランプリ」という年次アワードプログラムだ。Rubyの開発者まつもとゆきひろ氏の活動拠点である島根県が中心になって組織したRuby bizグランプリ実行委員会が主催し、グランプリの審査委員長をまつもと氏自身が務めている。

 アワード名のとおり、Rubyを使って開発されたビジネス用途のシステムやサービスの中から、新規性、独創性、市場性、将来性に富み、今後継続的に発展が期待できる事例を表彰する。

 前回のRuby bizグランプリ2022では、JUKI松江が開発した『mruby/cで実装されたミシンの補助装置』(関連記事老舗ミシンメーカーの『縫い』へのこだわりを形にした「楯縫(たてぬい)プロジェクト」─JUKI松江)と、Shippioが開発した国際物流プラットフォーム「Shippio(シッピオ)」(関連記事アナログ業務が多く残る国際物流の現場をデジタル化するプラットフォーム「Shippio」─Shippio)が大賞を受賞している(関連記事2018~2022年のRuby bizグランプリ大賞を紹介した記事)。


Ruby bizグランプリ2023大賞
水産流通プラットフォーム「UUUO(ウーオ)」
開発概要:水産業者・小売・飲食店向け鮮魚仕入れ・販売のB2Bマーケットプレイス
開発企業:ウーオ https://service.uuuo.co.jp/
開発した主なシステム:UUUO
利用技術
・Ruby/Ruby on Rails
・Flutter
ニーズおよび解決したかったこと
 水産流通の商流では、産地から消費地に水産物と情報が一方通行で流れるため、需要の把握や供給量の可視化がしづらい環境にあります。特に、買いたい人が、買いたいものを、買いたいときに手に入れられないことが課題です。飲食店では値段や鮮度、漁法、産地の情報もないまま入荷を行うこともあり、時化(しけ)などで急に入荷できない事態も起こっています。売り手も、固定化された商流の中で売り方や販路の拡大がしにくく、商品に価値を付けにくいのです。
 開発した「UUUO」は、情報や需要、価格などが可視化された状態での売買を実現します。これにより、「実は金目鯛が欲しかったA社」の存在がUUUO上で見えるため、今まで届いていなかったところに提供可能になり、売り手の「高く売りたい」と買い手の「安く買いたい」バランスの最適化を通じて適正な価格を形成すると考えます。
Ruby採用理由
 主にRails+Heroku構成にしたのは、水産業におけるプロダクト開発(≒価値の具体化)に集中し、標準的に備えたい仕組みや機能と共にサービスを素早く立ち上げて価値検証に時間を使いたかったからです。Ruby未経験のエンジニアやインターン生中心に技術のフォローがしやすい、豊富なGemなどエコシステムが充実しているのも理由です。水産業は魚の名前(方言含む)や規格、B2Bの物流モデルなど非常に複雑なドメインのため、OOP(オブジェクト指向プログラミング)のポリモーフィズムとカプセル化を用いて各概念を適切にモジュール化するなど、拡張性と柔軟性をシステム全体にもたらしてくれると考えて選択しました。
Ruby採用効果
 上記で挙げた採用理由がほぼ効果に現れています。ウーオではエンジニア、プロダクトマネジャーが開発の中で業務現場における業界・ユーザーの理解に比重を置いており、開発に集中しやすい技術選定となりました。ドメインの複雑性を内包するロジックは極力カプセル化し、外から扱いやすくする工夫を随時行っています。プロダクトや事業のフェーズに合わせて、エンジニアが柔軟にロジックの形をアップデートしていきやすい言語だと思います。
 また、採用候補者へのアプローチでは、Rubyという枠では絞らず、プロダクトづくり、ユーザーへの価値提供や課題解決に関心を持つメンバーが集まり、入社後にキャッチアップに取り組んでもらっています。
審査委員長 まつもとゆきひろ氏コメント:急務である一次産業のDX、なかでも水産業の流通に着目して取り組んでいる点を高く評価。すでに国内で広く利用され、海外も視野に入れており頼もしい。

●もう1つのRuby bizグランプリ2023大賞の記事はこちら
関連記事累計1億人が利用する「pixiv」のタイムリーな開発を支えるRuby on Rails─ピクシブ

市場にプレーヤーとして参入、そこで見えた水産業の課題

 2016年に設立し、「日本の水産業にとって、新しい流通をつくる」をミッションとしているウーオ(本社:広島県広島市)。創業者の板倉一智氏は網代港がある島根県岩美町出身で、祖父、曽祖父も漁船を所有しているなど、水産業は身近なものだった。板倉氏は就職して地元を離れていたが、帰省するたびに水産業の衰退を目の当たりにし、水産業を元気にしたいとの思いから起業した。

 本社がある広島市は、地元鳥取県のある中国・四国地方最大の都市にして最大の消費地。買い手が多く集まるこの地を選んだという。

 ウーオはまずは水産業の課題を調べ、解決策を模索するために、実際にプレーヤーとして市場取引に関わるところから事業を始めた(図1)。プレーヤーといってもだれでもすぐに参入できるわけではなく、資格も簡単に取れるものではない。代表自ら何度も港に通い、想いを伝え、信頼を得ていった。

 努力が実り、2018年に鳥取港の仲買免許と賀露港(鳥取県鳥取市)の買参権(注1)、2019年に網代港の買参権を取得。網代港での新規買参権取得は約20年ぶりだったそうである。

注1:水産物産地市場における買参権とは、生産者が市場に水揚げした魚介類を、卸売人を通じて購入する権利のこと。法令資格、実績、保証金など一定の資格を有することで、市場開設者から買参権を取得することができる。

 ようやく市場に参入できた同社は、魚をセリで買い付け、豊洲や大阪、名古屋など全国の市場に出荷を始める。流通の1プレーヤーとして魚を売買する中で、水産業における課題も明確になってきた。売り手と買い手の取引先拡大が円滑にできておらず、取引先が固定化していたのだ。そこで同社は新しく販路を作る仕組みが必要と考えた。

図1:創業から現在までの歩み(出典:ウーオ)
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実際の取引経験を生かした「スマホでつながる水産市場」

 そこで、新たな販路を作る仕組みとして開発したのが、水産流通プラットフォーム「UUUO(ウーオ)」だ。「スマホでつながる水産市場」というキャッチコピーのとおり、売り手も買い手もスマホアプリから魚の売買ができる鮮魚専門マーケットプレイスアプリである(図2)。

図2:UUUO画面イメージ(出典:ウーオ)
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 ウーオはこのサービスに自ら買い付けた魚を出品するほか、電話やファクスを使って取引していた買い手や、島根、徳島、京都など他地域の売り手にアプリを紹介し、ユーザーを増やしていった。2024年2月現在では約120社の売り手、約450社の買い手が利用しており、飲食店との取引も増えているという。

 水産業では、現在も電話やファクスでやりとりすることが多い。しかしこれらの方法では、「今回購入した以外にも、実はこんな魚が欲しい」といった買い手のニーズや、売り手の「実はこんな魚も持っている」といった情報を掴むことができない。UUUOではこれらの情報を共有し、売買につなげることができる。

 ただ商品を売買するアプリなら、エンジニアであれば簡単に作れそうと思われるかもしれない。だが、この業界特有の複雑な事情もある。例えば「産地によって商品の規格や魚の呼び名が違う」「同じ種類で同じ重さであっても、まったく同じ魚はない」「生食用、加熱用の区分があり、魚の種類ごとにその区分は異なる」など、工業製品とは違う難しさがあるという。こうした問題に対し、同社はプレーヤーとしての経験に基づき、魚の売買に特化した機能をUUUOに組み込んでいる。

●Next:「Rubyに必ず触る環境」づくりがスピーディな開発につながる

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