[技術解説]

アナログ業務が多く残る国際物流の現場をデジタル化するプラットフォーム「Shippio」─Shippio

Ruby開発最前線─Ruby bizグランプリ2022大賞サービスを紹介(2)

2023年2月2日(木)Ruby bizグランプリ実行委員会

日本発のオープンソースのプログラミング言語「Ruby」と、その開発フレームワーク「Ruby on Rails」。これらを用いて開発されたアプリケーションやサービスは数多あるが、その中から、特にすぐれたものを表彰するのが年次アワードプログラム「Ruby bizグランプリ」だ。本稿ではRuby biz Grand prix 2022の大賞に選ばれた2つのサービスのうち、国際物流プラットフォーム「Shippio(シッピオ)」(開発:Shippio)を紹介する。

Rubyのすぐれたビジネス事例を表彰するアワード

 Rubyは、生産性を高めるフレームワークRuby on Railsと共に、世界の多くの開発現場で使われているオープンソースのプログラミング言語である。その普及を促進するために2015年に始まったのが「Ruby bizグランプリ」という年次アワードプログラムだ。Rubyの開発者まつもとゆきひろ氏の活動拠点である島根県が中心になって組織したRuby bizグランプリ実行委員会が主催し、グランプリの審査委員長をまつもと氏自身が務めている。

 アワード名のとおり、Rubyを使って開発されたビジネス用途のシステムやサービスの中から、新規性、独創性、市場性、将来性に富み、今後継続的に発展が期待できる事例を表彰する。前回のRuby bizグランプリ2021では、ヤマップが開発した登山地図GPSアプリ「YAMAP」(関連記事人と山をつなぐ、ハートフルな登山地図GPSアプリ「YAMAP」─ヤマップ)と、HIKKYが開発したVRイベントプラットフォーム「バーチャルマーケット」(関連記事世界最大規模のメタバース/VRイベント「バーチャルマーケット」─HIKKY)が大賞を受賞している(関連記事2018~2022年のRuby bizグランプリ大賞を紹介した記事)。


Ruby bizグランプリ2022大賞
国際物流プラットフォーム「Shippio」
開発概要:デジタルフォワーディングサービス
開発企業:Shippio https://www.shippio.io/
開発した主なシステム
・Shippioクラウドサービス
・Any Cargo
利用技術
・Ruby
・Ruby on Rails
・PostgreSQL
・Go
・React
・TypeScript
ニーズおよび解決したかったこと
・本船ステータス確認や書類作成などの貿易業務における単純作業工数の削減
・伝言ゲーム・転記などの業務非効率の解決
・貿易業務の属人化解決
Ruby採用理由
・動的なプログラミングの容易性
・記述の簡易さ
・コミュニティの成熟度
・高品質なドキュメント
Ruby採用効果
・すばやい機能追加や修正が可能になった
・デファクトスタンダードな技術要素に絞って使い、チーム内でのコミュニケーションを活性化した
・多国籍なメンバーをはじめとした多様な人員構成を実現できた
審査委員長 まつもとゆきひろ氏コメント:IT化の進んでいない業界においてDX化を推進している独創性を評価。テクノロジーだけでなく様々なサービスとのハイブリッドな事業形態は可能性が大きいと考える。

●もう1つのRuby bizグランプリ2022大賞の記事はこちら
関連記事老舗ミシンメーカー『縫い』への拘りを形にした「楯縫(たてぬい)プロジェクト」─JUKI松江

アナログ業務が多く残る国際物流業界を支援

 Shippio(シッピオ、本社:東京都港区)は2016年6月に設立されたベンチャー企業である。「理想の物流体験を社会に実装する」をミッションに掲げ、貿易管理システムの提供と国際物流フォワーディング業務の提供を通じて、国際物流領域の課題解決に取り組んでいる。

 今回受賞した国際物流プラットフォーム「Shippio」は、「デジタルフォワーディングサービス」をうたうクラウドサービスである。同社CPO(Chief Product Officer)の森泰彦氏(写真1)は、サービス開発の背景として国際貿易の現況を次のように説明する。

 「日本では輸出入量が右肩上がりで増えている一方、貿易に従事する人材は増えていません。貿易は社会のインフラですが効率化は進まず、この先5〜10年で貿易業務そのものが成り立たなくなる可能性もあります。日本は島国であるため、国際物流が止まるとスーパーでは8割の商品が並ばなくなります。こうした貿易業務が抱える課題の解決を目指して生まれたのが『Shippio』です」

写真1:Shippioシニアバックエンドエンジニアの関口亮一氏(左)と CPO(Chief Product Officer)の森泰彦氏(右)(出典:Shippio)

 国際物流は3つのレイヤーのプレーヤーが協働する業界だ。1つ目のレイヤーが輸出入を行う商社やメーカーなどの荷主で、2つ目のレイヤーが物流アセットを持つ海運・船舶、通関、トラック、倉庫などの物流会社。その2つのレイヤーの間に入るのが、貨物の輸出入に伴う国際物流の手配や調整を代行するフォワーダーである(図1)。

図1:国際物流における3つのレイヤー(出典:Shippio)
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 その中でもフォワーダーの業務プロセス/フローは大量の手配・調整で非常に煩雑になる。しかしながら、担当者間のコミュニケーションに今でも電話やファクス、紙文書のやりとりが残っている。フローの中で紙から紙への転記も多く、伝言ゲームにならざるをえないところも多々ある。

 現場の業務は長年にわたって確立されたものだが、担当者個々の作業量、かかる負荷は高い。しかも国際物流での貨物は国内だけでなく海外を経由するため、リアルタイムに正確な情報を得られずに、予定どおりのスケジュールで運ばれない、経由地が変わるといったケースも頻繁にあるという。

 「Shippio」は、こうした課題を解決し、国際物流のフォワーディング業務や貿易業務を効率的に行うためのクラウドプラットフォームだ。本船動静の自動更新、見積もり・発注、貿易書類や請求書管理、納期調整などを一元管理して、アナログ作業が多く残る国際物流に関わる業務をデジタル化する。

サービス提供にあたって自らフォワーダーとしてライセンスを取得

 国際物流の現場において、貿易実務担当者が長年の業務で培ってきた「自分なりの効率をよくするノウハウ」を捨て、新しいサービスへ切り替えてもらうのは容易ではない。Shippioは次のような戦略を立てて臨んだ。

●まず、自らフォワーダーとして貨物利用運送事業のライセンスを取得し、実践で経験を重ねながら、顧客に提供するフォワーディングサービスを改良していく
●顧客のサービス導入時は一気にリプレースするのではなく、少しずつ試して良さを実感してもらいながら導入範囲を広げてもらう

 同社自らフォワーダーとなって経験を積み、試行錯誤しながら最適を目指して作り上げたのが「Shippio」というわけだ。フォワーディング業務を支援する種々の機能を備えるが、「特にフォワーディング案件の見える化とコミュニケーション・情報の一元管理が強み」(森氏)だという(図2)。

図2:「Shippio」のサービス領域(出典:Shippio)
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 国際物流のなかでも船便のコンテナは予定どおり到着しないケースが多い。例えば上海から東京の輸送期間は約1週間とされているが、実際には、その約4割で1〜2日のスケジュール変更が発生しているという。

 スケジュール変更が発生すると、その後の予定をすべて組み直さなければならない。担当者は関係各者に電話をかけ、受け取ったファクスや書類などを紙やExcelへ転記しながらスケジュール調整を行う。これが今までのやり方だったが、「Shippio」がそれを変えると森氏は強調する。

 「『Shippio』は、担当者にかかるこうした業務負荷を、テクノロジーを駆使してリプレースし、ビジネスの成長につながる作業にリソースを振り向けられるようにします。実際、顧客企業による業務工数を見ると、約50%の業務削減を実現しています」(森氏)

●Next:「Rubyは『こう書くとうまく、楽しく、ダイナミックに書ける』ことに強くフォーカスしている言語だ」

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