AI時代に求められるスキルセットを考察する
2024年7月11日(木)CIO賢人倶楽部
「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、タペストリー・ジャパン Vice president, Head of International Information Technologyの杉林隆彦氏によるオピニオンである。
最近ではテレビや新聞などの一般メディアでも、“AI”という言葉が普通に使われるようになりました。筆者などは日常生活で聞かない、目にしない日はないと感じるほどです。今後は否応なしにAIとの共存、共生が進み、私たちの生活や仕事の仕方は大きく変わっていくでしょう。
となると、それに対応・適応・順応するために新たなスキルセットが求められるはずです。それは一体、どういうものでしょうか? ここでは、「AI時代に求められる能力とは何か?」について、私見を述べさせていただきます。
人間とAIの共存に求められる能力とは?
欧米はもちろん日本でも、AIにより仕事のありさまやタスクの進め方が変化し始めており、それはさらに加速していくと思われます。例えば、翻訳者やイラストレーター、コピーライターといった仕事にはすでに影響が出ていると言われますし、米国では弁護士や会計士、教師の仕事にAIの影響が及びつつあると報じられています。
当然ですが、比較的定型的なタスクの自動化や最適化、生産性の向上においてもAIは極めて有用ですから、既存の職業のいくつかがAIに置き換わり、なくなってしまう可能性は高いです。古い話ですが、2015年に「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」という調査がありました。49%という数字は、今だともっと高くなるかもしれません。
こうした変化が進みつつある現状で私達に求められること、人間だからこそできることとは何なのでしょうか? 本コラムを執筆している時点で、筆者は「人間だからこその決断力や行動力」が重要と考えます。これらの能力は、AIとの共存、役割分担において不可欠です。
具体的には、AIとの協業により、そしてAIの効果的な活用により、新しいビジネスを生み出すのだという発想と、その発想に基づく行動です。この時、AIに任せっぱなしすることなく、最終的な責任は私達にあるという認識が欠かせません。AIの効率化と人間の戦略的な判断が融合することで、より良い成果を生み出すことができるでしょう。
そして人間ならではの柔軟性や創造力もますます必要なスキルであると考えます。AIを活用し、イノベーションを起こすといった目標を持つことは必然的な流れになると同時に、個々人が意識的に自己判断や問題解決能力を向上させる努力をする必要があるのではないでしょうか?
一方で人間らしさは、多様性や自己表現の重要性を含みます。AIとの共存においては、依存せず自己判断を重視することが重要です。AI時代に求められる人間の力は、適応力や柔軟性、倫理観など多岐にわたる要素を持ちます。これらの要素をバランスよく発揮し、未来を切り拓いていくことが肝要です。
リーダーはこれまで以上にEmpathy(共感力)を問われる
もう1つ、妙な表現ですが、“失敗する力”も必要です。AIを用いて何かを変革する取り組みは、失敗することが多々あると考えられます。そこでは失敗から学び、それを次に生かす工夫や能力が求められるのです。失敗を恐れず、その経験を成長の機会と捉えるカルチャーや環境が醸成されることも重要となるでしょう。
AIの発展は必然であり、それに伴ってAIと人間の関係は変化し続けるでしょう。相互補完的な関係が築かれることもあれば、敵対的な関係になることがあるかもしれません。筆者自身はAIの進化について楽観的・好意的に捉えていますが、AIの倫理に関する課題、問題への対応、対策は整備途上です。スキルとは違いますが、AI時代のビジネスパーソンにはその状況に配慮した公正かつ倫理的なAIの利用が求められます。
最後にリーダーシップの変化についても私見を述べます。リーダーはAIをサポートツールやアシスタントとして捉え、それを活用して迅速な判断力や決断力を発揮することが求められます。その時、数字やデータベースに表れない判断力の一部として、「Empathy(共感力)」が重要になると考えます。別の表現をすると、Empathyを軸に自らの判断力を磨くことが大切です。
「Magic & Logic」の妙味なのです。これによって、AIとの共存を円滑に進めることができます。逆に言うと、こうした人間ならではのスキルを高めていかない限り、AIに仕事を奪われることはなくても、AIを使いこなしている、使い方を熟知している別の人達に自身の仕事が取られていくのではないでしょうか。
タペストリー・ジャパン
Vice president, Head of International Information Technology
杉林隆彦氏
※CIO賢人倶楽部が2024年7月1日に掲載した内容を転載しています。
●筆者プロフィール
CIO賢人倶楽部(CIOけんじんくらぶ)
http://cio-kenjin.club/
大手企業のCIOが多数参加するコミュニティ。企業におけるIT部門の役割やIT投資の考え方、CEOをはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、デジタルトランスフォーメーションに向けたこれからの情報システム戦略、IT人材の育成、ベンダーリレーション等々、さまざまな課題について本音ベースでディスカッションしている。
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