[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

本来の生産性向上のために「無駄」を活かす

りそなホールディングス 執行役 DX部門副担当 川邉秀文氏

2024年9月13日(金)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、りそなホールディングス 執行役 DX部門副担当の川邉秀文氏によるオピニオンである。

 私が就職したのは平成が始まった時期。いわゆるバブル経済が終演しつつあったものの、社会全体にはまだ余裕が感じられたと記憶している。それに比べ令和の現在は、仕事の量も日々処理する情報の量も遥かに増え、外部環境変化も相まって求められるスピードが速くなったと感じる。インターネットがここまで普及し、SNSなどによる情報の拡散スピードが飛躍的に上がっていることも背景にあるだろう。

 平成になる以前からIT化を進め、業務効率を図ってきたはずの日本企業は、このような時代の変化に適合できているのだろうか。忙しいことが当たり前になっているが、外部環境が大きく変わってきている中において、本当に必要なことを実践できているのだろうか。いくつかの例外はあるにせよ、全般として現在の環境変化に適合する形での生産性向上が、改めて求められる状況にあると考える。

生産性向上は何のため?

 生成AIの登場とともに、AI活用による生産性向上が各所で叫ばれている。「自然言語解析」「機械学習アルゴリズム」「データマイニング」「画像認識」「音声認識」といったデジタル技術の活用により、業務の自動化や効率化を実現し、業務プロセスや機能の再設計が可能だと考えられている。

 しかし、そもそも今の業務を自動化する前に、何をやりたいのかを明確にする必要がある。生産性向上という目的についても、何のための生産性向上なのかを組織として共通認識できていなければ、AIの適用による生産性向上は意味をなさない。

 多くの企業は、昔に比べ徐々にヒト・モノ・カネを減らし、効率を追求することを優先課題としている。成長が鈍化する中、人員や予算を削減することで利益を確保する動きである。経営資源は利益確保を前提とした上で、経営(本社)が必要と認めたもののみが現場に下ろされ、現場は与えられた経営資源をやりくりして指示を遂行するようなことが現実となりつつある。無駄どころか、必要なものまで取り上げられさえもしている。現場(社員)は目の前の業務に効率よく取り組むことが評価されるため、既存の枠組みを超えた発想は生まれない。

 ここで生産性について考えよう。生産性は、「投入量(インプット)」を分母、「生産量(アウトプット)」を分子とする割り算で計算される。投入量を人員とすると、どれだけの人を投入して、どれだけのアウトプットを生み出したかが「生産性」である。それを向上するには、分母を固定にして分子を最大化するのか、分母を減らして既存と同じだけのアウトプットを産み出すかのいずれかである(図1)。

図1:労働生産性と生産性向上の計算式
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 この単純な生産性の定義から、人員や予算の削減で利益を確保するだけでは企業として不十分であることが分かる。今企業に求められているのは分子の拡大、つまり既存ビジネスとしての付加価値を維持しつつ、新たな付加価値を生み出すことを目指すことと考えられるからである。ポイントは、既存ビジネスの付加価値額を上げるのではなく、新たな付加価値を創造し、企業としての成長・変革を実現する点である。

「無駄」がイノベーションを生み出す

 先日、社外のメンバーを交えたディスカッションの場があり、そこで着目したのが「無駄」の効用である。生産性向上という言葉とは逆行しているように思えるが、一見、無駄に思える「時間」や「チャレンジ」を社員に提供することが、新しい価値創造=イノベーションにつながるのではないかと考えたのである。

 無駄は、自由や余裕といったものにも置き換えられる。時に、何か無駄に思っていたことが、新たなアイデアや発展のきっかけになることがある。一見、無駄だと思われる社員同士の対話・おしゃべりや、活動・リソースが新しい洞察をもたらし、将来的に大きな価値を生み出すことがある。

図2:無駄がイノベーションを生み出す
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 こうして、失敗や間違いは学びと成長の機会となる。時には何もしない時間やリラックスの時間が、クリエイティブな考えや問題解決のアイデアを浮かび上がらせることもある。

 浮かんだアイデアを実行に移したいという想いがなければ、イノベーションという行動につながらない。無駄に見える時間も、精神的なリフレッシュには重要である。適切な余暇や休息は、生活全体のバランスを保つために不可欠である。

 要するに、あることが無駄に見えるからといって、必ずしもそうではないことがある。新しい視点やアプローチを受け入れることで、無駄の中から意義あるものを見つけることができる。答えのない時代において、無駄こそがイノベーションにつながるものと考えてみてはいかがだろうか。

●Next:生産性向上ばかりでなく、もっと価値創造に取り組もう

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