日本オラクルは2024年10月24日、クラウド事業の最新動向にフォーカスしたプライベートイベント「Oracle Cloud Forum」を都内で開催した。基調講演に、同社 取締役 執行役社長の三澤智光氏をはじめとする同社幹部やパートナー企業のキーパーソンが登壇。Oracle Cloud Infrastructure(OCI)を中心とする製品・サービスの紹介を交えながら、パブリッククラウドベンダー各社と異なる事業の方向性や戦略をアピールした。
米オラクル(Oracle)のクラウド戦略は、競合ベンダーに10年ほど遅れ、2020年に入ってから本格化した。企業のクラウド活用が大きく広がった2010年代には株価の低迷を経験したが、クラウドへの注力以降、業績は上昇傾向にあるという。
直近の2025年会計年度第1四半期の決算では、売上高が前年比7%増の133億ドル(約2兆円)。また、契約済みの将来売上を示すRPO(Remaining Performance Obligation)は53%増の990億ドル(約15兆円)。「このほとんどをクラウド事業がもたらしている」(日本オラクル 取締役 執行役社長の三澤智光氏、写真1)という。
IaaSのOracle Cloud Infrastructure(OCI)は、「後発だからこそ新しいテクノロジーの取り込みを積極的に続け、先行する各社とは異なる進化を遂げた」と三澤氏。クラウド事業の成長を支える独自性について、2024年9月に米ラスベガスで開催された年次コンファレンス「Oracle CloudWorld 2024」での発表を踏まえ、(1)AI、(2)専用クラウド、(3)マルチクラウド、(4)ミッションクリティカル、(5)クラウドアプリケーションの5つの観点から説明した。
AI開発領域ではインフラ提供に専念
ハイパースケーラーをはじめとするクラウド事業者がそれぞれの生成AI/大規模言語モデル(LLM)開発でしのぎを削る一方、オラクルはこれまで独自開発のモデルを提供していない。このことについて、三澤氏は「生成AIそのものの開発競争には参入せず、すべての生成AIメーカーに超高速プラットフォームを提供することで、より早く安いAIサービスの投入を支援するのが我々のAI戦略だ」と述べ、立ち位置の違いを強調した。
米OpenAIやカナダCohereなど、多数のAI企業がOCIをシステム基盤に利用している。オラクルがOCI上で提供する「OCI Supercluster」は、NVIDIA(エヌビディア)の最新GPUである「Blackwell」(製品名は「NVIDIA B200」)を最大13万1072基搭載する。ピーク性能は2.4ZFLOPS(ゼタフロップス)であり、これは他のハイパースケーラーの6倍の性能であるとアピールした(図1)。
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ソブリンクラウド需要への対応
顧客専用のクラウドには、2つの提供形態があると三澤氏。パブリッククラウド同等の環境を顧客のデータセンターに構築する「OCI Dedicated Region」と、パートナー企業のデータセンターに設置する「Oracle Alloy」である(図2)。
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Oracle Alloyの特徴の1つは、契約企業がクラウドの運用やサービス提供を担う点だ。データ主権や運用主権を保証しながら、OCIと同等の機能を持つクラウドを提供できる。経済安全保障や地政学リスクの観点からニーズが高まるソブリンクラウド(Sovereign Cloud:主権クラウド)を提供するためのサービスと位置づける。日本では富士通、野村総合研究所(NRI)が同サービスを採用している(関連記事:富士通、Oracle Alloyによる“ソブリンクラウド”を2025年度に国内提供 / NRI、Oracle AlloyによるIaaSを提供開始、金融向けに“NRIマルチクラウド”の選択肢を拡充)。
2024年10月23日には、NTTデータが国内3例目のOracle Alloy採用を発表している。同社は2017年より、ソブリンクラウドの要件を満たすIaaSの「OpenCanvas」を、金融や公共領域を中心に提供してきた。Oracle Alloyの採用により、ソブリンクラウドであるOpenCanvasの機能をOCIによって拡充するとしている(図3、関連記事:NTTデータ、国内企業に向けて「Oracle Alloy」を活用したソブリンクラウドを提供)。
Oracle Alloy採用の背景として、パブリッククラウドと従来のソブリンクラウドに次ぐ“第3の選択肢”の必要性を語ったのは、同講演に登壇したNTTデータ 執行役員 テクノロジーコンサルティング事業本部長の新谷哲也氏(写真2)だ。「パブリッククラウド利用者の間では、信頼性の高い環境へのニーズが高まっている。一方で、ソブリンクラウドの顧客は、AIを含む新たなテクノロジーやアジリティを求めるようになってきている」と説明した。
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なお、専用クラウドのベースとなる技術として、三澤氏は「Dedicated Region25」を紹介。Oracle CloudWorld 2024で発表したもので、3ラックからパブリッククラウドと同じ環境を提供できるという。「フットプリントが小さいということは、コストや電力使用量が安いということであり、それそのものが価格転嫁できることが強みだ」(三澤氏)。
ハイパースケーラーとの協業を深化
パブリッククラウドベンダーとの協業によるマルチクラウド戦略に関して、三澤氏は2つの連携パターンを挙げた。各社のデータセンターとOCIを低遅延の専用線で接続する形態と、データセンター内にOCIのデータベースサービスを導入する形態だ。
後者は現在、米マイクロソフトのAzure上で「Oracle Database@Azure」、同じく米グーグルのGoogle Cloudにて「Oracle Database@Google Cloud」を提供中。日本では2024年10月時点で、Oracle Exadata Database@Azureの東日本リージョンでの一般提供が始まっている。
同社 専務執行役員 クラウド事業統括の竹爪慎治氏(写真3)は、マルチクラウド戦略を、パブリッククラウドおよび専用クラウドと並び「分散クラウド戦略」の一環として位置付けていると説明。直近1年で専用クラウド(Dedicated RegionおよびAlloy)が計8リージョン、マルチクラウド(Oracle Database@Azure/@Google Cloud)が計15リージョン拡大したことに言及した(図4)。
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リージョンの拡大に加えて、パートナーも拡大していると竹爪氏。2024年9月には米Amazon Web Services(AWS)との連携による「Oracle Database@AWS」を発表(2024年中にプレビュー開始予定)。将来的には、主要なパブリッククラウドすべてで同社のデータベースを利用できることをアピールした(関連記事:オラクルとAWS、「Oracle Database@AWS」を発表、AWSデータセンターでExadataを運用)。
オラクルとの協業に関して、登壇した日本マイクロソフト 業務執行役員の大谷健氏(写真4)は、「生成AI時代といわれる今日、最も重要なのはAIモデルではなくデータだと考える。ミッションクリティカルなデータを持つオラクルのデータベースをアプリケーションに近づけ、レイテンシーを極限まで縮めることが大切だ」と説明。国内での冗長性に対するニーズを背景に、東日本リージョンに加えて西日本リージョンでの提供も予定しており、その時期について「非公式だが、2025年の桜の花が咲く頃」との意気込みを示した。
●Next:業務アプリケーションに100以上の生成AI機能と50以上のAIエージェントを実装
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