[コストを価値に変える─バリューエンジニアリングで解き明かすデータ基盤の真価]
データ基盤が組織の進化を促す─持続的なROI創出に向けた製品・アーキテクチャ選定:第4回
2026年5月29日(金)鄧 虓(Snowflake Value Engineering, Japan & South Korea Lead)
組織にとってデータ基盤は、ビジネスの意思決定や戦略立案、新たな価値創造を支える経営基盤にほかならない。一方で、データ基盤やデータ活用における投資対効果(ROI)の算出は難しく、投資が試験的な段階にとどまり、本格的な活用に至らない組織は少なくない。本連載では、バリューエンジニアリングの方法論と事例に基づいて、データ基盤やデータ活用へのROIを明確化するための考え方や実践的手法を4回にわたって紹介する。最終回となる本稿では、データ基盤が持続的に価値を発揮するためのアーキテクチャ設計や製品選定における要点を解説する。技術的な要件に加え、組織が抱える制約・ジレンマ、文化や人材といった非技術的要素をいかに調和させるかがカギとなる。

データ基盤の構築にあたって、最適なアーキテクチャ設計と製品選定は、持続的な価値創出の前提条件となります。しかし、考慮すべき点は技術的な先進性や機能の豊富さだけではありません。それでは、どのような点に目を向けるべきでしょうか。
結論としては、自社の戦略と現状のIT環境を踏まえた「前提」と「制約」、すなわちトレードオフ関係にあるさまざまな要素の優先度を明確化すること、そして効果創出に関わる技術以外の要素──文化・体制・人材の進化との関係を、包括的に考えることが必要だと考えます。
アーキテクチャと製品選択の「前提」と「制約」
第1回から第3回にかけて、データ基盤への投資効果を「基盤的効果」と「業務・事業効果」に分け、いかにそれぞれの効果を解像度高く見積もり、ステークホルダーとの合意形成を重ねるかを解説してきました。これらのバリューエンジニアリングのアプローチは、投資の正当性を証明し、プロジェクトを前進させるための強力な武器となります。
しかし、いざ青写真を描いて実行に移そうとすると、企業は現実の壁に直面します。データやAIをビジネスの最前線で有効活用しようとする際、白紙のキャンバスに理想のシステムを描けるケースは稀です。
多くの企業は、IT戦略やエンタープライズアーキテクチャなどの上位方針、厳格化するコンプライアンス環境や業界ごとの法規制、過去から現在まで複雑に絡み合って構築されたレガシーシステム、そして自社が現在保持しているリソースとケイパビリティ(人材、スキル、データ資産、エコシステムなど)といった、さまざまな前提と制約の中で最適解を見つけ出さなければなりません。
例えば、長年稼働してきたオンプレミスの基幹システム上に膨大なデータ資産を持つ企業であれば、それらをクラウド上のモダンなデータ基盤へ、いかに業務を止めずにセキュアに連携させるかという「レガシーの制約」が大きな課題となります。
一方で、新興企業や新規事業などで自社が保有するデータ資産が十分にない場合は、外部のサードパーティデータやパートナー企業とのデータエコシステムの構築が、ビジネスの成否を分けます。そのため、データのコピーや移動を伴わずに、社外とシームレスかつリアルタイムに連携できるかどうかが、アーキテクチャ設計における決定的な制約(必須要件)となるでしょう。
加えて、それらの基盤を構築・運用できるエンジニアや、データをビジネス価値に変換できるデータサイエンティストといった人材を内部で確保できるのか、あるいは外部パートナーを活用するのか。こうした点も、製品選びに直結する極めて現実的な判断基準です。
●Next:データドリブンへの変革に必要な組織のあり方
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