前回まででBPMは皆さんの業務改善に大きく寄与できるものであることが概ね理解していただけたと思います。ここではもう少しBPMの効果を掘り下げて考えてみましょう。
3. BPMの効果:業務改善の視点から
1)可視化による効果
業務の可視化、つまり業務をビジネスプロセスとして整理することで、業務の流れが誰の目にも明確にわかるようになることはすでに述べました。もちろんこれだけではBPMとしては不完全なのですが、実はこの部分だけでも企業にとっては大きな価値が期待できるものなのです。一章で述べたように、今の時代においては「企業がいかに変化に素早く対応できるか」は非常に大きな課題です。変化に対応するということは、生産性を下げることなく業務を迅速に変える必要が出てくるということになりますが、その可否は可視化ができているかいないかで大きく異なってきます。
例えば市況が変わり、皆さんの企業で新商品を扱うことになったとします。新商品を扱うにあたり「どの組織で扱えるか」「リソースは足りているか」「商流はどうなるか」「社内外との業務処理はどうするのか」などを早急に明確にする必要があります。社内外との業務がビジネスプロセスとして可視化されていれば、新商品に関わるプロセスとそれを構成するサブプロセスについて、既存のビジネスプロセスを参考にしながら「人」「もの」「金」の観点から短期間で検討することができます。またどの部署で扱うのが効果的かを比較検討することもできます。複数の組織を横断的に「可視化」することで全体最適を図るころができるようになるのです。一方、可視化できていなければ皆さんは感覚的に判断するしかすべがなくなってしまいます。その結果、扱ってはみたものの業務処理がまちまち、あるいは行き当たりばったりの処理となり、顧客に迷惑をかけることになりかねません。これでは全体最適どころか部分最適もままなりません。
こうして「可視化」により企業は俊敏性を備え、全体最適を図る組織の集まりへ変わって行くことができるのです。
2)最適化と標準化による効果
次に「最適化」と「標準化」です。業務を、重複している作業や無駄な作業をなくして「最適化」し、皆が同じ進め方でできるように「標準化」して行くものであることはすでに述べました。ここでの効果は改めて説明するまでもなく、業務の効率化・業務品質の均質化そのものです。
例えば皆さんが人事異動などで組織を移った時のことを思い起こしてください。業務のやり方は以前の組織と同じでしたか?もちろんまったく異なるビジネスをしていればやり方が異なるのはしかたないことでしょう。しかし同じような形態のビジネスであってもやり方がずいぶん違うなと感じたことはありませんか?例えば何か外部に発注するとしてそのときに承認をもらう経路、役職、人数などの違いにとまどったことはありませんか?ではどちらのやり方が効率的なのでしょうか。特に合併や買収を経た企業では何年かたっても組織ごとに違うやり方をしていることが往々にしてあります。もちろんそれぞれの文化というものもあり、どちらか一方のやり方が悪いということではないと思います。しかし両方の良い面を取り入れて同じやり方にすることで効率が上がるとは思いませんか?
さらに「標準化」は業務のシステム化を進める際に大きな意味を持つことになります。もし「標準化」が進んでいなければ同じソフトウェアを導入したとしても組織ごとにカスタマイズしなくてはならず、せっかく良いソフトウェアを入れても費用がかさんでしまうことになります。また、同じソフトウェアでは組織ごとの要件を満たせないといったことにもなりまねません。又、ワークフロー(次回「5. BPMと情報システム」参照)は業務の流れ自体をシステム化しますが、標準化が進んでいないことにより、組織ごとに別々のワークフローが混在することになるとせっかくのシステム化もあまり効率化に繋がらず、かえって保守のコストがかさむばかりということになってしまいます。
3)共有化による効果
ビジネスプロセスの内容をマニュアルや規程として文書化し、組織の中で共有し活用することが「共有化」であることは前述しました。前回の「2)BPMとは」の冒頭でも述べましたが、特定の人だけが作業の進め方をわかっている状態ではその人に何か起きたときに業務は止まってしまいます。これを「属人化」といいます。作業の進め方が「共有化」されていれば、他の人が替わりに業務を行うことができます。もちろん組織の全員が同じレベルですべての作業を理解している必要はありません。 作業の進め方がマニュアルや規程などで文書化されており、それを見れば誰であっても(多少余計に時間はかかったとしても)業務ができれば、業務そのものが止まってしまうことはないからです。
また「共有化」が進むと、それを業務そのものの効率化に繋げることもできるようになります。例えば突然たくさんのお客様から注文をいただいたとします。普通は1人で処理をしているので3日間かかってしまいます。それほど繁忙でない他の人が2人手伝えば一日で終わらせることができます。このようにリソースを臨機応変に配分して組織全体として最適な対応ができるようになります。
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