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住民情報の保全に課題突きつける、解は行政システムの抜本的改善か─被災地の自治体/情報サービス業者の実態

大震災から何を学ぶべきか Part 4

2011年6月21日(火)佃 均(ITジャーナリスト)

地震、津波、原発問題……。2011年3月11日に発生した東日本大震災の一連の災禍は、東北地方を中心とする自治体や地場のITサービス業に大きなダメージを与えた。震災直後の現場での取り組みや、それを通して見えてきた課題はどういったものだったのか。被災地や関係機関を取材した。

東北地方で巨大地震。各地で大津波が発生─。この知らせを確認した3月11日午後3時過ぎ、東京・一番町の地方自治情報センター(LASDEC)では、3月末まで理事長だった小室裕一氏を中心に幹部職員が集まって、想定される事態とセンターとして講じ得る対応策の協議に入っていた。

「真っ先に考えたのは、地震によるデータセンター(DC)の機能停止と津波によるデータ喪失。岩手県から千葉県まで太平洋に面した市町村を津波が襲ったと聞いて、特にデータの喪失が深刻と考えた」と、戸田夏生理事長(当時は理事)は語る。

次に想定されたのは、避難所における本人確認の混乱だ。「市町村職員も被災している可能性は高い。避難してきた人々に手厚い行政サービスを提供する必要はあるが、どの避難所に誰がいるのか、それを確認しないことには何も始まらない」(同)。

戸田氏は理事就任の直前まで、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の全国センター長を務めていた経験がある。住基ネットの地域センターには、突合用データが保全されていることから「これが役に立つはずだ」と同氏は考えた。

住基ネットは、市町村の住民情報システムとネットワークでダイレクトにはつながっていない。法律がそれを禁じているためだ。また収集しているのは個人情報保護の観点から、基本4情報(氏名、住所、年齢、性別)のみ。このため個々の市町村の住民情報システムとはデータ構造が異なっていて、そのままダウンロードしても使えない。

とはいえ、緊急事態だ。提供できる情報は可能な限り提供しなければならないという使命に駆られた。地域センターの突合用データを市町村ごとに再編集し、被災市町村のシステムに反映させるプログラムを作成することを決め、翌12日から突貫作業を始めた。

写真4-1 仙台市若林区。広大な土地が海砂で覆われ、家屋は一軒も残っていない
写真4-1 仙台市若林区。広大な土地が海砂で覆われ、家屋は一軒も残っていない

オープンなプログラムとデータ形式を

LASDECはさらに3月18日、「被災者支援システム全国サポートセンター」に登録されている市町村向けアプリケーションプログラムのOSS(オープンソースソフトウェア)としての提供に踏み切るとともに、「国民へ発信する重要情報のファイル形式について」と題した通知を発信。続く25日には被災市町村に住所マスターとして使える「全国町・字ファイル」の無償提供を開始した。

このときLASDECが活用したのが、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)が構築・運営している「自治体CEPTOARシステム」だ(図4-1)。行政機関に共通するIT障害情報などを一元的に配信する仕組みで、地方公共団体にはLGWAN(総合行政ネットワーク)が援用されている。本来は組織的なハッキングやサイバーテロ、凶悪なマルウェアなどに備えるのが目的だが、大規模災害でも有用であることが証明された。

図4-1 CEPTOARの位置付けと情報配信経路
図4-1 CEPTOARの位置付けと情報配信経路

「国民へ発信する重要情報のファイル形式について」は、被災市町村に向けて他の市町村や行政機関が情報を発信する場合、WordやExcel、PowerPointといった特定アプリケーションに依存しないデータ形式とすることを要請するものだった。PCが被害を受けて利用できない状況でも、当該市町村職員が携帯電話で受信できるようにするためだ。ともあれ、LASDECの対応は機敏だったといっていい。

自治体関係者は次のように言う。

「現時点では復旧・復興に全体の関心が向いているが、一段落した時にOSSとODF(オープンドキュメントフォーマット)の意味合いと有用性が改めて確認されるだろう。同時に共同アウトソーシングや自治体クラウドへの関心も自ずから高まるはずだ」。

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