さまざまな機器が発信する情報を効果的に活用するには、 大量データを一元的に蓄積/分析する基盤が重要な役割を担う。 そこでPart4は、主要ベンダーが提供するM2M向けのプラットフォームと、通信サービスをまとめた。折川 忠弘 (編集部)
Hadoopを採用し大量データの高速分析に対処
膨大なデータをプラットフォームに集約することを前提に、データを高速処理する機構を備える。中でもHadoopを用いた並列分散処理の仕組みを実装するものが目立つ。
日立製作所が2011年11月に発表した「ビッグデータ利活用サービス」はその1つだ。蓄積するデータを解析する機構としてHadoopを用いるほか、高速検索を可能とするデータベースエンジンの研究も進める。収集するデータをリアルタイムに監視し、管理対象機器などの異常を早期に検知するストリームデータ処理機能も用意。これらを用途に応じて使い分けられるようにする。「データをどう解析し、活用すべきかのコンサルティングも実施する。そこには当社がグループ会社に適用したM2Mのノウハウを活かしている」(経営戦略室 担当本部長 香田克也氏)。
富士通が2011年8月に発表した「コンバージェンスサービス」も同様のアプローチを採る。蓄積するデータに対してHadoopを、データのリアルタイム検知にはCEP(複合イベント処理)を適用。別々に収集したデータを組み合わせ、これまで気づきにくかった知見、たとえば顧客心理や行動などを予測できるようにする。2011年9月には地図情報と連携するプラットフォーム「SPATIOWL」の提供を開始。人や自動車などの行動/移動情報を解析し、地域の特性などを地図上で可視化する。すぐに利用できるようにアプリケーションを提供するほか、顧客やパートナーが独自のアプリケーションを開発し、APIを介して地図情報などを活用することも可能だ。
NTTデータの「Xrosscloud」も大量データを高速分析する仕組みとしてHadoopを採用。流通やヘルスケアなどの業種向けにデータを加工し、意味ある情報としてサービスを提供できるようにする。日本オラクルは2011年10月、大量データの高速分析を可能とするHadoop採用アプライアンス「Oracle Big Data Appliance」を発表。他社がM2Mプラットフォームをサービスとしてクラウド上に構築する中、「Exadata」などのアプライアンスを組み合わせたデータ収集/分析基盤を提供する。
装置管理を効率化
接続容易性や保守業務軽減も
管理対象となる装置が広域に多数存在する場合、設定変更に現場に赴いて対応するのはコストもかかるし現実的ではない。そこで装置の制御機能をプラットフォームに実装し、遠隔から操作できるようにするソリューションが登場している。
NECが2011年8月に発表した「CONNEXIVE」は、装置を制御する機能を複数備えている。例えば「Operation Support」は、装置の登録や削除、設定の変更や監視など行い、「Data Gateway」は装置ごとにデータの送信頻度を切り替え、目的に合わせた運用を可能にする。「Device Agent」は装置側にエージェントソフトを組み込み、多様な通信プロトコルを隠ぺいすることで、プロトコルの知識なしにプラットフォームと装置を容易に接続できるようにする。
ディジ インターナショナルは装置を管理する専用クラウドサービス「iDigi Device Cloud」を用意。独自のファームウェアを装置に実装することで、遠隔からきめ細かく制御できるようにする。「多様な装置の中には、十分に制御できないものも少なくない。当社のファームウェアを適用すれば遠隔から高度な設定が可能となる。今後は他社製装置に当社のファームウェアを実装し、自社提供の装置以外も制御できるようにする予定だ」(マーケティング&エンベデッド ビジネス リージョン マネージャ 江川将峰氏)。
ルートレック・ネットワークスが2011年11月に発表した「ZeRo」は、Wi-Fi対応の専用装置との認証を簡素化する独自機能「ESP(EasySetUp)」を備える。装置とZeRoを接続するための専用ソフト「ESPマネージャ」をPCやスマートフォンにインストールし、装置を初期状態で起動すると自動的にESPマネージャに接続される。ESPマネージャはWi-Fiの接続設定やZeRoへの登録情報を装置に送信。装置はこれら情報をもとにZeRoに接続し、通信するための暗号鍵を取得。以後の接続は暗号鍵を用いて接続できるようになる。こうした一連の作業を自動化する。
なお、同社はWi-Fiの通信距離を引き延ばす独自技術を開発中だ。アクセスポイントが近隣にない場合でも、装置がアクセスポイントの役割を果たし、データを遠方まで送信できるようにする。「2012年中には商品化する予定である」(代表取締役社長 佐々木伸一氏)。
M2M向け通信サービスも登場
安価に大量データを送信可能に
モバイル用途のデータ通信サービスを、M2M向けに特化したサービスとして投入する動きも見られる(表4-2)。
NTTドコモの「FOMAユビキタス」はFOMA網をデータ通信のみに用いるサービス。月額料金が1680円となる「プランM」の場合、無料通信分として8000パケットを含み、1パケットあたりの通信料は0.126円と安価だ。
インターネットイニシアティブの「IIJモバイルサービス/タイプD」もFOMA網をデータ通信に用いる。大量データを送信する用途を想定した定額料金プランのほか、あらかじめ購入済みのパケットを複数の装置でシェアする「パケットシェアプラン」を用意。ある装置のデータ送信量はわずかで、別の装置は大量のデータを送信し続けるといった場合、パケット購入分を無駄なく利用することができる。
そのほか、NTTコミュニケーションズの「Arcstar Universal Oneモバイル」は、FOMAやLTEといった携帯電話網からインターネット回線を使わずにセキュアな社内ネットワークにアクセスすることが可能。個人情報を含む監視カメラの映像などを転送する用途に向く。KDDIは1回線の契約で端末を最大3台まで使い分けられるプランを用意するなど、M2Mの利用を想定したさまざまな通信サービスが出揃いつつある。