「BYOD(Bring Your Own Devices:私有デバイスの業務利用)」への関心が高まっている中で、企業としてはどのような姿勢が必要となるのでしょうか。1つの参考になるのが、欧米企業で広がりつつある「セルフサービスIT」という考え方です。
“なし崩し的BYOD”だと、IT部門の負担になるばかり
実態として、社としての明確な方針・ルールが特にないまま、すでに社員の間でなし崩し的にBYODが始まっている企業は相当数に上るかもしれません。そもそもIT資産やセキュリティに対する認識が甘いか、認識はしていても手が回らないかという事情からそうなってしまったわけで、上述のBYODのメリットや課題をきちんと検討したうえでの運用はおそらくなされていないでしょう。そんな“なし崩し的BYOD”だとすると、自社ITの運用管理全般を担うIT部門にとって新たなセキュリティ・リスクやコスト増大要因になるばかりですので、いったんすべてのBYODをストップして一から仕切り直すべきです。
IT部門としては、なし崩し的BYODを容認して、得られるメリットも不明確なままに自身の仕事や悩みの種を増やすのではなく、クライアントPC管理の戦略・方針を最新版に書き換えるかたちでBYODを検討し、適切な導入ステップを踏む必要があります。
セルフサービスITの一環にBYODを組み込む
そこで参考になりそうなのが、主に欧米企業の事例で見かける「セルフサービスIT」の考え方と、それに基づくBYODの実践です。セルフサービスITは、IT部門が業務用のPCを社員数分一括で購入しセットアップを行ったのち社員に配るのではなく、社員に一定額のデバイス購入予算を与え、業務環境や業務内容に見合ったデバイスを自身で選び購入させるというスタイルです。社員はデバイスの選定やその利用スタイルを自由にできる一方、セキュリティ対策も含めた運用管理作業もセルフサービスで行うわけです(大半のケースで、デバイスの紛失や情報漏洩などのセキュリティ事故を起こした場合にペナルティーが科せられるような条項が設けられている)。
かつての社用車通勤がマイカー通勤となったように、デバイスも社用ではなく、自身のワークスタイルにマッチしたマイデバイスを使って生産性の高い仕事をする――。セルフサービスITの発想はかなり欧米流と言え、また、そもそも社員のITリテラシーが相応に高いことが前提になります。全社員に適用するというのは難しいと思いますが、なし崩し的ではない、戦略的BYODの1つのスタイルとして検討に値するのではないでしょうか。
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