[ザ・プロジェクト]

リクルートはいかにしてデータサイエンスを駆使するか

2012年6月11日(月)川上 潤司(IT Leaders編集部)

困難な仕事も持ち前の体力で乗り切る。そんな体育会系の“ノリ”で知られたリクルートは、今は昔。最近は広告宣伝費やレコメンドメールの最適化に数学理論を取り入れ、成果を上げ始めている。世界一の情報活用企業を目指してプロジェクトを推進する、3人のデータサイエンティストに話を聞いた。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

吉永 恵一 氏
吉永 恵一 氏
リクルート 住宅カンパニー MP統括部 SUUMOネット推進部 領域横断MPグループ CRMチーム チームリーダー
2010年10月、リクルートに入社。MIT United インターネットマーケティング室にて需要予測や集客予算最適化に用いるソリューションの開発を推進してきた。2012年4月から現職。ビッグデータを活用したCRM関連業務に従事している。日本データベース学会や日本オペレーションズ・リサーチ学会によるデータ解析コンペティションにおいて、2009年度の奨励賞に続き2010年度に殊勲賞を受賞している

 

西郷 彰 氏
西郷 彰 氏
リクルート MIT United ソリューションプランニング部 マーケティングプランニンググループ ゼネラルマネジャー
2007年にデータ分析を専門とする企業を立ち上げ、大手ビールメーカーや自動車メーカーのデータマイニングや統計解析を支援してきた。2009年11月、リクルートに入社。MIT United インターネットマーケティング室にて統計解析やデータマイニング、予測分析、レコメンドアルゴリズムの開発業務に従事する。Hadoopを活用した開発にも携わっている

 

松本 健 氏
リクルート カスタマーアクション プラットフォームカンパニー ネットビジネス推進室 CRM・ポイントIDグループ
ヤフーやインタースコープ(現マクロミル)で、データマイニングや各種最適化を目的とした分析支援に従事してきた。今では一般的になったリスティング広告の最適化アルゴリズムを開発。2007年6月にリクルートに入社し、MIT United インターネットマーケティング室で、需要予測やリスティング広告の最適化アルゴリズムの開発、ブライダル誌の表紙の効果分析を推進。2012年4月から現職

 

─貴社では数年前からデータ分析に力を入れているとうかがっています。取り組み内容をお聞きする前に、現在の皆さんのお立場を教えてください。

吉永:2012年4月から不動産・住宅関連の情報サイト「SUUMO」を扱う住宅カンパニーで、データ分析のディレクションや商品のマーケティングを担当しています。ほかにビッグデータ活用やCRM(顧客関係管理)など色々と…。ひと言で言うと、何でも屋です(笑)。

松本:私はカスタマーアクション プラットフォームカンパニーの所属で、やはりデータ分析の業務に就いています。例えば、グルメサイト「ホットペッパー」や割引チケット共同購入サイト「ポンパレ」など、当社で言う日常消費領域のサービス間のクロスユースを促進するためのデータ分析を手掛けています。以前は、ホットペッパーのクーポン利用を促進するレコメンドの最適化も担っていました。

西郷:私はMIT Unitedと呼ぶIT部門に相当する組織のソリューションプランニング部で、吉永が開発したSUUMO向けのデータ分析の仕組みを全社的に横展開するなど、組織横断的なデータ分析を推進する立場にあります。現在は全員が別々の組織にいますが、この3月まではみんなソリューションプランニング部の前身のインターネットマーケティング室にいたんです。

─失礼ながら、貴社が各部署にデータ分析の専門家を抱えているとは思いませんでした。何しろ、リクルートといえば体育会系営業の代名詞のような存在でしたから。

西郷:実は5、6年前からデータ分析の専門家を計画的に採用していて、今では(学会などのデータ分析コンテストで受賞歴があるような)高い経験とスキルと持つ人材だけでも10人を超えるまでになりました。アメリカではデータ分析の専門家をデータサイエンティストと呼んで、ネット系企業を中心に採用を加速させていますが、日本ではこれから本格化するかもしれません。

吉永:もちろん、現在もプロパーの社員の中には「よし、やるぞ!」と威勢の良い人達は多いですよ(笑)。そうした体育会系の社員による地道な営業活動と、私どものように中途入社した社員が経験してきた最先端のサイエンスが噛み合って事業が回るようになってきています。

松本:体育会系営業といっても、そもそも地頭の良い人が多いから、分析アプローチの採用を提案すると、すんなりと可能性を理解して受け入れる土壌が整っていた面はあります。

─それは大きい。業務の担当者が良さを理解できなければ、どれだけ分析に力を入れても広がりませんからね。

映画製作や医療機器開発などキャリアはさまざま

─ところで、もともと皆さんはデータ分析の専門家だったのですか?

吉永:キャリアのスタートはアメリカのシアトルにある映画制作会社です。

─えっ、映画制作会社!?

吉永:ええ、ドキュメンタリー映画のクリエイタでした。ところが日本に帰ってきたら仕事がなくて(笑)。たまたま大学院で統計を学んでいたこともあって、帰国後はずっと分析畑を歩んでいます。

─松本さんは、いかがですか。

松本:私も最初は分析畑ではないんです(笑)。大学院では統計学を専攻していましたが、就職したのは医療機器メーカーで、MRI(核磁気共鳴画像法)装置など画像診断装置のソフトウェア開発者をやっていました。2002年に転職してからは、一貫してデータ分析に携わっています。

─ユニークな経歴ですね。まさか西郷さんまで?

西郷:新卒で就職したのは飲料メーカーです(笑)。ただ、市場調査や官能評価など、データ分析を必要とする業務に就いていました。その後、転職を経て2007年にデータ分析のベンチャーを起業し、ビールメーカーや自動車メーカーのデータマイニングやデータ分析を支援してきています。

需要予測で導き出すコストとリターンの均衡点

─皆さんの経歴についてもっとお聞きしたいところですが、話を先に進めましょう。最初に吉永さん、住宅情報サイトのサービスと高度なデータ分析がどうも結びつかないのですが、具体的に何をされているのですか。

吉永:需要予測に基づく広告宣伝費のポートフォリオの最適化です。

─何らかの数理モデルを用いて、テレビコマーシャルやWebの広告、検索キーワードなどに連動して表示されるリスティング広告の出稿割合を決める。

吉永:おっしゃる通りです。物件の資料請求件数などKPIに設定した項目の目標値を、コストミニマムで達成するシナリオを描くために数学を取り入れています。

─分かるような気もしますが、露出度が高い媒体を中心に広告宣伝を展開すれば良いのではという感じもします。本当に高度なデータ分析が必要なのですか。

吉永:予約の件数に応じて収益が増えるじゃらんのような従量課金型のビジネスと違って、住宅情報は広告枠を販売するビジネスなんです。どちらかと言えば、前者はコンバージョンの最大化が求められ、後者は広告主であるお客様と合意した成果と、それを達成するのに当社が投じる広告宣伝費との均衡点を導き出すことが求められます。

─均衡点を見出せれば、費用の最適化や削減が見込める。

吉永:ええ。今より少ない広告予算で目標を達成できれば、余剰金を新たなサービス開発に有効活用できるようになります。

─住宅カンパニーは広告宣伝に年間いくらかけているんですか?

吉永:びっくりするほど多く、としか言えません(笑)。

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