携帯から装着へ。そんなキャッチコピーを目にする機会が増えた。スマートフォン、タブレットに次ぐ金脈として、ウェアラブルなコンピュータが注目を集めている。しかし、長年IT業界に身を置く読者であれば、デジャヴュ(既視感)があるかもしれない。実は、「ウェアラブルコンピュータ」という概念自体は随分と昔からあるものだからだ。今回は、その歴史を振り返ってみよう。
ウェアラブルコンピュータのルーツ
現在のところ、ウェアラブルコンピュータの明確な定義は存在しない。文字通り身体に装着可能なコンピュータだと言う人もいれば、衣類に装着して持ち歩けるコンピュータを指す人もいる。中には、コンピュータの動力源は人力でも構わないと考える人もいる。何をもって、ウェアラブルコンピュータと呼ぶかによって、ルーツは異なる。今回は、代表的なものを見ていこう。
1600年代 そろばん指輪
Wikipediaによれば、ルーツは1600年代まで遡る。中国最後の王朝、清で使われていた「そろばん指輪」がそれだ。その名の通り、親指の爪ほどの大きさの算盤が付いた指輪である。針を使って操作していたらしい(関連記事)。確かに、そろばんはコンピュータの原点ではある。ただ、珠を動かすのも、結果を判断するのも人間だ。ウェアラブルコンピュータのルーツとして考えるのは、いささか強引かもしれない。
1800年代 腕時計
「腕時計」がルーツだとする説もある。人力以外の動力源を備え、自動的に時間を計測する。この場合、アブラアム=ルイ・ブレゲがウェアラブルコンピュータの生みの親ということになる(腕時計最古の記録は時計商のカタログだったという異説もある)。1812年にブレゲによって腕時計「No.2639」が実用化された。この腕時計は行方不明となったため、現在「クイーン・オブ・ネイプルズ」という名称で復刻版が製造されている(関連記事)。
1500年代 持ち運び可能な時計
持ち歩くことをもってウェアラブルとする場合、ルーツは「そろばん指輪」よりも前にさかのぼる。1500年代に「ゼンマイ」が開発されて以来、持ち歩き可能な時計が作られるようになったからだ。1511年には、ドイツ・ニュルンベルグの時計職人ペーター・ヘンラインが「ニュルンベルクの卵」を作っている。
ざっと調べるだけでも、これらのものが見つかる。「そろばん指輪」のようなものならば、もっと他にも見つかるかもしれない。ただ、1500年代から1800年代のあたりから、日常的に使う便利な道具、計算機や時計を持ち歩きたい、身に着けておきたいというニーズがあったことは確かなようだ。
現代版ウェアラブルコンピュータの歴史
さて、そろばんや時計ではない、今日的なウェアラブルコンピュータの概念が誕生したのは、1970年代後半である。トロント大学のスティーブ・マン教授が「人が作成したプログラムを実行可能なコンピュータを身に着ける」という理論を提唱。アカデミック分野でウェアラブルコンピュータが研究され始めた。
1996年には、インターネットの前身、ARPANETを開発したことで知られる米DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)がスポンサーとなり、「Wearables in 2005」というワークショップを開催している。
コンシューマ向けの製品も登場し始める。1979年、ソニーが初代ウォークマン「TPS-L2」を発売した。ウェアラブルコンピュータが「衣類に装着(収納)して持ち歩き可能な機械」も定義に含むとしたならば、世界で初めて商業的に成功したウェアラブルコンピュータは「TPS-L2」であったと言えるかもしれない。
1980年代後半には通信機能を備えた「ポケベル」が大ヒットする。ポケベルは、ベルトに取り付けることもできた。ポケベルやウォークマンをウェアラブルコンピュータだと言う人はほとんどいないが、アクセサリ型のウェアラブルコンピュータとして分類することも可能だと筆者は考える。
1990年代に入ると、ウェアラブルコンピュータに注目が集まるようになる。きっかけを作ったのは、1990年に創立したザイブナー社だ。頭や腕にディスプレイを、腰にコンピュータ本体を装着。音声入力で操作するデバイスを次々と発表。ウェアラブルコンピュータならザイブナーと言われるほど存在感があった。
1992年に創業したPalm社も一役買った。同社が発売したPDA(Personal Digital Assistant:個人情報端末)「Palm」は世界中で大ヒット。携帯可能な情報端末であり現在のAndroidやiPhoneのような勢いを持つ製品だった。
この2社が台風の目となり、IT業界にウェアラブルコンピュータブームを造りだしていく。
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