米レッドハット(Red Hat)が2014年14日~17日(現地時間)に開催した年次カンファレンス「Red Hat Summit2014」。そこで同社は、「プログラマブルIT」のコンセプトを提唱した(関連記事『次世代クラウドは「プログラマブルIT」に【Red Hat Summit2014=前編】』)。日本におけるレッドハットは、Linuxやミドルウェアの有力企業ではあっても、それ以上ではない。しかし、グローバルにみれば、OSSコミュニティにおける同社のレピュテーション(名声や評判)を想像以上に高い。次世代クラウドに向けてOSSコミュニティは、どこに向かおうとしているのか。Red Hat Summit2014から報告する。
次世代クラウド像として、「プログラマブルIT」を提唱した米レッドハット(関連記事:次世代クラウドは「プログラマブルIT」に─Red Hat Summit 2014[前編])。同社の構想や技術に注目しておくべき最大の理由は、日本では見えにくい「レッドハットのポジション」と「OSSによる生態系(エコシステム)」にある。レッドハットが米国で構築している米大手ベンダー=IBMやHP、デル、シスコシステムズなど、との関係は、かつての米マイクロソフトと大手ベンダーの関係を彷彿とさせるものがある。
「OSSエコシステム」を進化させる”触媒”
レッドハットの”強固な立場”を示したのが、Summitにおける基調講演である。CEOであるWhitehurst氏は基調講演の冒頭でまずこう語った。
「1666年9月、英国ロンドンを大火事が襲った。不幸な出来事だったが、都市を根本から造り替えるいい機会でもあった。しかしロンドンはそうせず、既存のインフラを再構築する道を選んだ。コペンハーゲンのように、そうでない道を選んだ都市もある。我々はそうした都市の今日の状況から学ぶことがある」。
これに続けて、「ITも同じ。作り直しの機会を逸し、トラフィックや容量の問題に頭を悩ませている時ではない。CIOは先進的なソフトウェアを活用してイノベーションをリードして欲しい」と訴えた。
このような指摘はよくあるものだ。注目されるのは、それに向けたレッドハットの役割を述べた次の発言である(写真1)。
写真1:レッドハットは自らを「カタリスト(触媒)である」と強調
「今、ITは高度に複雑化している。(かつてのIBMやマイクロソフトのように)1社だけですべてを提供できるIT企業は存在しない。ITの開発者や提供者、先進ユーザー企業による開発と活用、その成果としてのイノベーションを起こすエコシステム(生態系)が必要だ。レッドハットはそこにおいて“Catalyst(触媒)”の役割を果たす。(前編で紹介した)コンテナ技術やOpenstackなどの開発をサポートし、それらをユーザーに届ける」。
どういうことか? OSSの先進ソフトウェアにはある種の使いにくさ――バグの存在や使い方の分かりにくさ――が、先進的であるがゆえにつきまとう。それがOSSコミュニティと、多くのITベンダー、ユーザー企業を分断してきた。
この点をレッドハットは、サブスクリプション(使用料)というビジネスモデルによって解消し、OSやミドルウェアの領域ではマイクロソフトに次ぐ存在になった。2014年2月期の売上高が2000億円に満たないとはいえ、OSSの世界では突出した存在だ。
しかし大きな存在になりすぎると、OSSコミュニティやユーザー企業から警戒・敬遠される。例えば、RHEL互換のLinuxに「CentOS」がある。これは完全に無料なので技術力のあるユーザーから高い支持を得ている。ところが2014年1月、レッドハットはCentOSを開発するコミュニティに参加すると発表した。レッドハットの説明は「収入のないCentOSのコミュニティを財務面などで支援する」ことだが、その意図を訝る見方があるのも事実だ。
そうした中で自らを触媒――化学変化を起こすのに不可欠だが決して主役ではなく、むしろ目立たない存在――に位置づけ、安心感を醸し出す。レッドハットが提供するOpenStackやOpenShift、RHEL7に対するユーザーの警戒心を未然に打ち消しつつ採用を促す巧みなメッセージといっていい。
Whitehurst CEOは基調講演をこうまとめた。
「OpenStackは20ものディストリビューションがあり、混乱しているという意見がある。だが実はLinuxも同じだった。今日、Linuxはクリティカルな処理、例えば証券取引所や潜水艦の制御などに用いられている。オープンソースのやり方こそが優れた技術をもたらす。ユーザー、ベンダー、開発者が手を組んでイノベーションに向かおう」。
説明は不要かも知れないが、エコシステムの触媒に過ぎないと言いつつも、「OpenStackもレッドハットのディストリビューションで」というわけである。
主要ベンダーが「レッドハットとともに」をアピール
一方で合計3回あった基調講演には、主要サーバー・メーカーがこぞって登壇した。IBM、シスコシステムズ、HP、デル、それにインテルである(いずれもsummitのプラチナ以上のスポンサーも務める)。米国サーバー市場における上位5社の中で登壇しなかったのはオラクルだけだ。各社の講演内容はおおむね共通であり、クラウドへの移行を中心にシステム刷新の重要性を訴える。そして、濃淡はあるものの、レッドハットとの関係を強調した(写真2)。
写真2:基調講演ではシスコなど大手ITがこぞってレッドハットとの関係をアピール
例えば米IBM。クラウドとスマーター・インフラを担当するゼネラルマネジャーであるDeepak Advani氏が、「クラウドはビジネスリーダーに途方もない機会を提供する。コンポーザブル(Composable)ビジネス、すなわちスピードとアジリティを備えたビジネスだ。事業部門が直接、ビジネスに必要なITを調達できるようにもなる」とクラウドファーストの意義を強調した(写真3)。
写真3:IBMはオープンな技術が「ダイナミッククラウドの基盤」と主張。「レッドハットがすべてではない」とも聞こえる
「コンポーザブルビジネス」とは、米IBMが2014年になって提唱し始めた概念である。日本では馴染みがないが「迅速に構成可能なビジネス」といった意味だ。さらに「そのためのITは、オープンであり、スタンダードであることが絶対的な基本要件になる」(Advani氏)と述べた。
これらを可能にするオープン・スタンダードなITとしてAdvani氏は、「OpenStackが重要だ、PaaSの機能をクラウド・ベンダー間で標準化し、アプリケーションをどのクラウドでも利用できるようにする。OASIS/TOSCA(詳細はこちら)や、IBMのPowerプロセサを使ったカスタムサーバーを開発するOpenPOWER Foundationにも注目して欲しい」と語る。これらの発言からIBMはレッドハットのOpenShiftやDockerとは一線を画していることが分かる。
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