「ガスト」や「藍屋」「バーミヤン」などを展開する外食チェーンのすかいらーくグループは2014年1月、全国3000店舗から集まるPOS(Point of Sales:販売時点管理)データの分析基盤をクラウド上に構築した。プロジェクトの期間は、検討開始から本稼働まで3カ月。プロジェクトを立案したマーケティング本部インサイト戦略グループ ディレクターの神谷勇樹氏に、クラウド選定の理由や新システムの狙いなどを聞いた。(文中敬称略、聞き手:志度 昌宏=IT Leades副編集長 Photo:鹿野 宏)
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――データ分析基盤をクラウド上に構築されました。まずは、プロジェクトの概要からお聞かせください。
神谷:すかいらーくグループが全国に約3000店展開している店舗で発生するPOS(Point of Sales:販売時点管理)データなどを分析するための基盤を、AWS(Amazon Web Services)の「Redshift」を使って構築しました。各店舗からのデータは、Redshiftで扱えるように変換してから、AWSのストレージサービスである「AmazonS3(Simple Storage Service)」にいったん格納し、一定時間ごとにRedshiftに取り込んでいます。Redshiftでの分析結果は、米Tableau製の「Tableau Server」と「Tableau Desktop」を使って可視化し、データ分析専門の担当者が活用しています。
数時間の処理が数分、数十秒で終了
これまでPOSデータの分析では、グループのデータセンター内にオンプレミスのDWH(Data Warehouse)システムを構築し、Excelで結果を利用してきました。ただ分析したい内容によっては、データ集計に何時間もかかるケースがあったのです。今回、Redshiftを採用したことで、同じ処理が数分、数十秒で終えられるようになりました。
――分析対象のデータの種類やデータの量は、どうなっていますか。
神谷:POSデータと呼んでいるものの中には、レシートに印字されているような売り上げ明細データのほかに、オーダリング端末で取得している注文を受けた時間や、注文を受けてから料理を提供するまでの時間、食事が済み精算をした時間、あるいは、クーポン券などの利用の有無などが含まれています。
これらを1会計単位や商品メニュー単位に集計しているので、1日当たり300万~400万レコードのデータが発生します。年間で10億レコード、これを数年分蓄積しています。分析時には、これらPOSデータに天候や気温、店舗周辺地域でのイベントといった情報も加味することになります。
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――Redshift導入の検討から稼働まで短期間だったと聞きます。
神谷:実は私自身が、すかいらーくに入社したのは2013年の9月のことなのですが、2カ月後の11月には「すぐにでもDWH環境を変えたい」と思うようになり、そこから検討を始めました。
ちょうど翌12月にRedshiftのセミナーが開催されたので、そこで情報を収集したり、AWSさんから、今回のシステム構築をお願いすることになるクラスメソッドさんの紹介を受けたりしました。クラウドサービスなので、私自身も実データで検証しながら要件をまとめつつ、システムインテグレータ数社にRFP(Request for Proposal:要求仕様書)を投げました。
2014年1月には社内経営会議での決済承認を受け、翌2月にはカットオーバーさせることができました。検討開始から本稼働まで正味3カ月ということになります。
――構築期間は1カ月もありません。
神谷:クラスメソッドさんには相当に無理をお願いしたと思います。我々の側で要求仕様を明確にできていない段階でしたので、どういう形で分析できるのかトライ&エラーの連続でした。データテーブルの設計においても、ディスカッションの中から、ニーズを見つけ出してもらうなど、柔軟に対応していただけました。いわゆるアジャイルと呼ばれる開発状況です。
――Redshift以外のクラウドサービスなども検討されたのでしょうか。
神谷:いえ、ほぼ決め打ちですね(笑)。サービス利用料金やパフォーマンス、納期のいずれにもAWSのサービスが合致していたのと、私の友人にデータベースの専門書を執筆しているほどのプロがいるのですが、彼からも「Redshiftは良いよ」と聞いていましたから。
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もちろん、他の選択肢も検討しています。例えば同じクラウドサービスでも、Googleなどでは、参考になる事例が見当たりません。AWSでは、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)や給与管理システムなどを動作させている事例があります。東急ハンズさんなどはPOSシステムそのものをAWS上で運用されています。店舗運営に直結するPOSを移行されているのですから、集めたデータを分析するDWHなら全く問題ないだろうとの判断です。金融機関のシステム運用基準であるFISC(金融情報システムセンター)ガイドラインに準拠できる点も安心材料でした。
オンプレミスなら桁違いの投資に
当然ながら、オンプレミスの仕組みでは、価格、納期ともに我々の要件には全く合致しません。システムの仕様を固めサイジングしてから構築していては、早くても半年はかかるでしょう。なのに、その後に分析したいデータを増やそうとすれば、また大事です。システム構築費用も、今回のRedshiftの仕組みと比べれば桁が違っていたでしょう。1桁の違いで収まっていたかも疑問です。
――今回の仕組みの投資額はいくらぐらいですか。
神谷:初期費用が100万円前後、年間の運用費を入れても初年度は数百万円といったところです。桁が違いますよね。RFPを出したシステムインテグレータ各社さんも、大手になればなるほど、「こんな値段では、やってられない」ということになってしまうようです。
――オンプレミスのDWHシステムは貴社のシステム部門が構築/運用されてきたと思いますが、クラウド導入は、すんなりと受け入れられたのでしょうか。
神谷:いえ、最初は一蹴されました。もっとも、2013年11月といえば、システム部門にすれば、この4月からの消費税率変更への対応で佳境を迎えていた時期ですから、単にクラウドだからと言うわけではないのです。ただ「すぐにでも変更したい」と思っていたわけですから、前職での経験や、私のノートPCにインストールしてあるMySQL上でも、これだけの分析ができるのだという実例を示しながら、クラウド導入が無謀な考えではないことを説明していきました。
――前職では、どういったお仕事をされていたのでしょうか。
神谷:元々、システムエンジニアとして、いくつかのシステムを構築していきましたが、すかいらーくに入社する直前は、ゲーム会社のグリー(GREE)に在籍し、データ分析と、それに必要なインフラを開発するチームを率いていました。ゲームの利用データを使い、数々のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)をWebベースでモニタリングする仕組みを作っていました。
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