テクノロジーの進化や世の変化に照らして考えた時、消費者や取引先と接する領域で斬新な価値を提供する“フロントエンド”が、より重要性を高めている。ITリーダーが念頭に置くべき主戦場を考える。
ITリーダーにも活躍の場、スピード感こそが命
同時並行的に進むテクノロジーの進化と普及が、かつては考え及ばなかったビジネスを可能とし、それが企業競争力の源泉にもなり得る状況が生まれようとしている。それが“デジタル革命期”だ。
企業は、既存の業務をデジタル化するのではなく、デジタル化が進む世界を見据えて事業を変革することに知恵を絞らなければならない。この時、ITは間接的にビジネスをサポートする存在ではなく、渾然一体と融合したビジネスそのものとなり、限りなく企業のフロントに位置するものとなる。
この新しい土俵に対して、誰がコミットして陣頭指揮を執るか。マーケティング部門や経営企画部門、あるいは事業部門が自ら立ち上がるという考え方ももちろんあるし、米国ではCDO(最高デジタル戦略統括者)といった専門職を任命する動きもある。
しかし、多くの日本企業において最右翼であり、前面に出ると期待したいのがIT部門のリーダーだ。数々の難関プロジェクトを推進してきた中で、経営陣や事業部門などに多くの人的ネットワークを持ち、組織横断的で俯瞰的なモノの見方を訓練してきた経験が活きるはずだ。もちろん、テクノロジーに対する一定の知識と見識を備えることも大きい。
もっとも、考えを改めなければならないことも多々あるはずだ。大きいのは、そこに求められるスピード感。SoEの分野に当面はパッケージソフトは存在せず、自社で創案・構築する必要がある。恐らくは完成形などなく、とにかく素早く形にして動かし、その結果を見ながら改修を積み重ねる試行錯誤の繰り返しだ。がっちり仕様を固めて計画的に事を運ぶという習い性は通用しないし、足かせにもなりかねない。
テクノロジーに対する強い関心と感度が不可欠
既存業務のIT化とは一線を画した、新規ビジネスの創造。そこに何よりも必要なことの1つは、テクノロジーに対する強い関心と感度だ。日々の生活の中で自身が感じる不満や不安を解消する技術は何かに想いを巡らせたり、最新テクノロジーのニュースからビジネスモデルにつながるヒントを得たり、貪欲なまでの洞察を積み重ねることが不可欠だろう。
例えば、ソフトバンクが2014年6月に発表した「Pepper」。生活をちょっと便利にするかもしれないロボットととらえては思考が止まる。各種のセンサ-の働き、インタフェースとしての設計、クラウドと連携した人工知能、独自アプリケーションの実行環境、自律的なアップデート…。個別の要素技術のみならず、こうした機器が家庭やオフィスに浸透した先には、どんな世界やビジネスが描けるか、逞しい想像力を働かせるための好材料に映る。そのほかウェアラブルや推論エンジンなど興味をそそるテクノロジーは今や目白押しだ。
「これはクールだ」。一方では「なんて鬱陶しい」…。エンゲージに向けて各社が一斉に動き出した先、短絡的に豊かな生活にはつながらず、しばし混迷期が続くかもしれない。個人情報の取り扱いも含めて、社会全体が経験を積み重ね、一定のルールや文化を創っていくことになるだろう。
1つ言えるのは、傍観を決め込む企業にチャンスはないだろうということだ。自ら知恵を絞り、実行に移し、経験から得られた教訓やノウハウを次の手にフィードバックする。未開の地だからこそ先行優位が際立つ。その場に赴き、種を植えて世話をした人のみが果実を得られることとなるのだ。