[製品サーベイ]

注目のメガネ型ウェアラブルデバイス(製品編)

2015年に新製品が続々登場

2015年4月27日(月)魯 玉芳(IT Leaders編集部) 志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

B2B(Business to Business:企業間)用途でのメガネ型ウェアラブルへの期待が高まっている。ベテラン社員の退職や各種製品のソフト化などを背景に、保守現場などを中心にノウハウ伝達/継承に向けた利用/検証が始まっている。2015年には、B2Bに焦点を合わせた製品が多数、登場してくる。

 「ここ1年ほど、企業からの問い合わせが再燃している」−−。メガネ型ウェアラブルデバイスを以前から扱ってきたメーカーやITサービス事業者の多くが、こう口をそろえる。「2015年は、B2B(企業間)におけるメガネ型ウェアラブルデバイス元年になる」との見方も広がっている。

 メガネ型ウェアラブルデバイスに改めて期待が高まっているのは、工場や物流拠点、保守現場などに加え、医療現場などにおける作業支援用途。テーマパークや観光ツアーなど、事業者が顧客向けサービスの一環として利用するB2B2C(企業対企業対個人)に向けた問い合わせや実施例もあるという。

「クラウド前提」を示したGoogleGlassが火付け役?

 メガネ型ウェアラブルデバイスは決して新しい製品分野ではない。VR(Virtual Reality)の技術とともに1960年代から開発され、1990年代には「HMD(Head Mounted Display)」として一般企業に向けた製品化が始まっている。

 それがここに来て改めて注目を集める大きなきっかけの1つが、2012年に市場テストが始まったGoogle Glassだろう。一般のメガネに、より近づいたデザインや、カメラで撮影した対象を認識し、その名称や特徴といった各種データが直ぐに確認できるといったプロモーションビデオの内容などによって、「こんな使い方をしてみたい」という関心を高めたと言える。

 クラウドコンピューティングや、スマートフォン/タブレット端末によるモバイルコンピューティングの利用が台頭してきたことも追い風だ。かつてのHMDなどは、PCやバッテリーなどをケーブルで接続し、これらを持ち運びながらの利用スタイルが多かった。モバイル接続を前提にすることで、本体の小型・軽量化や利用範囲の拡大につながっている。

 Google Glassに触発される形で、メーカー各社が自社技術を核にした製品開発を強化したのも事実。東芝や日立製作所など、テレビやプロジェクターなどで培ってきた画像処理技術を活用し、メガネ型での製品化を急ぐ。表示機能は、「半導体関連のデジタル技術に加え、光学的なアナログ技術が必要で一朝一夕には実現できない」(日立製作所の瀬尾欣穂組込みコンポーネント研究部主任研究員)という。

 Google Glass自体は2015年1月、一般販売が中止された。B2C市場でのプライバシー問題が立ちはだかったとされる。だが、開発者向けの製品提供は続けている。B2B向けにターゲットを絞り込んだうえで、2015年内にも再度の製品化を目指す。

小型・軽量化と並行し用途別の多様化が進展

 2015年3月時点で、日本市場で販売されている、あるいは2015年中の発売が予定されている主なメガネ型ウェアラブルデバイスを表1と、次ページの表2にまとめた。これら以外にも、AR(Augumented Reality:拡張現実)に特化したゲーム用や、スポーツシーンでの利用に特化したゴーグル型などの製品もある。

表1:日本で入手可能または2015 年中に発売される主なメガネ型ウェアラブルデバイスの仕様表1:日本で入手可能または2015 年中に発売される主なメガネ型ウェアラブルデバイスの仕様
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表2:日本で入手可能または2015 年中に発売予定のな主なヘッドマウント型およびセンシング専用のウェアラブルデバイスの仕様表2:日本で入手可能または2015 年中に発売予定のな主なヘッドマウント型およびセンシング専用のウェアラブルデバイスの仕様
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 メガネ型ウェアラブルデバイスは、いくつかの軸で分類できる。1つは、両眼用か片眼用か。人が普段、両眼で空間を把握しているため両眼のほうが自然に見えるとされている。だが、「左右に表示する画像の同期を取るための制御技術など、作り込みが難しい」(セイコーエプソンの津田敦也ビジュアルプロダクツ事業部HMD事業推進部部長)。

 片眼用では、メガネ型の製品に加え、市販のメガネのツルに装着する製品もある。普段からメガネを掛けている人でも利用しやすいほか、製品によっては右眼と左眼のどちらにも装着できるというメリットもある。

 別の分類軸は、搭載する機能の範囲だ。カメラや各種センサーを多数搭載するスマートフォンなどの構成に近い製品だけでなく、画像の表示に特化した製品などもある。「スマートグラス」という呼称でイメージされるのは、フル機能を搭載するタイプの製品だろう。市販のメガネに装着する製品を中心に、小型・軽量化が確実に進展している。

 一方で、ジェイアイエヌ(JiNS)が2015年秋の発売を予定する「JiNS MEME(ミーム)」のようにセンサーしか搭載しない製品も登場している。同社R&D室マネジャーの井上一鷹氏は、「MEMEはメガネの新しい用途を提案するもの。あくまで“メガネ”であり、ITありきの製品開発はしない。ただ部品としての小型化が進めば、各種センサーなど搭載を検討したい要素はある」と話す。

 折しもビッグデータに象徴されるように各種センサーで取得したデータの活用にも期待が高まっている。人の動きや意識を把握するためには、頭部が最適とされ、メガネは各種センサーを装着するための手段としては簡易かつ抵抗が少ないとみられている。今後は、スマートフォン同様の機能を持つ製品とは別に、表示のみ、センシングのみなど、製品の多様化も進みそうだ。

 以下では主なメガネ型ウェアラブルデバイスの特徴を、フル機能を持つ両眼用と片眼用、単機能型、センサー型の順で紹介する。


【別掲記事】プロジェクターやテレビの技術が差異化要因に

写真:テレビの技術を応用している東芝グラス写真:テレビの技術を応用している東芝グラス
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 メガネ型ウェアラブルデバイスの構成要素で、他のデバイスと最も異なるのが表示機能だ。他デバイスでは、利用者がディスプレイの前に座ったり、表示装置を手に持ち視界の前に持ってきたりする。だが、メガネ型では、表示装置や画像を視線の先に配置しなければならない。どんな表示技術を採用するかでデバイスの形状も大きく違ってくる。
表示技術をテコに、メガネ型ウェアラブルデバイスの開発や差異化を図っているのが、セイコーエプソンや東芝、日立製作所といった日本勢である。こうした会社の共通点は、テレビやプロジェクターといった映像表示装置を長年、開発/製造してきたことである。
テレビで言えば、美しい映像をディスプレイ表面に結像したり、近年では3D(3次元)映像を表示したりといった技術がある。3D映像では、専用メガネなしでも3D映像が見えるようにもなっている。プロジェクターなら、小型化や、投影面に近くに設置することで生じる画像変形の補正、そして、周囲が明るくてお表示できるようにするための高輝度化などが進行している。
いずれも、デジタル技術だけでなく、光学系のアナログ技術も必要なため、「一朝一夕には技術/ノウハウを獲得できない。アナログ技術がメガネ型ウェアラブルデバイス開発のボトルネックになる可能性がある」(日立製作所の瀬尾欣穂組込みコンポーネント研究部主任研究員)という。
例えばセイコーエプソンは、プロジェクター開発で培った技術を基に、独自の表示装置を開発。両眼表示にこだわることで、2つの表示装置に映る映像の表示タイミングを同期させる方法などで先行する。
東芝は、同社製液晶テレビにおける3D表示用途で開発した技術を核に「東芝グラス」の開発を急ぐ。ハーフミラー技術を応用した特殊レンズを使うことで、ツルの部分に置いた表示装置からの映像を、レンズで角度を変えて表示する。2015年中の製品化を急ぐ。
日立も、テレビやプロジェクター、光ディスク用ピックアップなどの開発技術を応用した表示装置を開発中だ。小型化と同時に、より明るい表示画面の実現を目指す。明るければ明るいほど、「屋外を含め、メガネ型ウェアラブルデバイスの装着シーンは増やせる」(瀬尾主任)からだ。ただ単純に明度を高めると消費電力も増える。効率をどう高めるかも重要になってくる。

セイコーエプソンのMOVERIO BT-200/ BT-200AV

写真1:セイコーエプソンのMOVERIO BT-200写真1:セイコーエプソンのMOVERIO BT-200
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 MOVERIO BT-200自体は、両眼用のメガネ一体型の映像鑑賞用ウェアラブルデバイスで、B2C向けの製品だ(写真1)。セイコーエプソンは、この製品をベースにしたB2B向け製品を2015年中には投入する計画である。基本機能は共通に、堅牢性やセンサー類の搭載などを図る。ここでは、2014年4月に発売されたMOVERIO BT-200の機能を紹介する。

 MOVERIO BT-200は本体(ヘッドセット)とコントロールボックスからなる。Android OSを搭載し、映像鑑賞だけでなく、ゲームアプリケーションを実行してプレーすることもできる。

 最大の特徴は、プロジェクター技術を活かした透過式の表示機能である。ハーフミラーレンズに、両ツル部分に搭載するマイクロプロジェクターから映像を投影することで、周りの状況を確認しながら映像を見られる。利用者が遠くを見れば画面サイズが大きくなる。例えば、20メートル先を見ている場合だと、320インチ相当の画面を表示する。

 コントロールボックスはスマートフォン大と大き目。動画を最大6時間連続再生するためのバッテリーを搭載するためだ。HMD事業推進部の津田敦也部長によれば、「日帰り出張での利用を想定したため。国内外とも、片道3時間が日帰りと宿泊の境界である。当然、バッテリーの小型化が進めれば、コントロールボックスは小さくなる」

 セイコーエプソンは、2011年11月にヘッドマウント型の「MOVERIO BT-100」を発売。製品的にはB2Cに絞りながらも、B2B用途での実証実験を繰り返してきた。B2B向け製品投入後は、「作業支援と言っても単に既存のマニュアルを表示するのでは、BT-200は不要。映像鑑賞に堪えられる動画表示機能を生かし、新しい形のマニュアルを考えている。業務ノウハウを持つパートナー企業と協力し、企業向けアプリケーションを提供していく」(津田部長)考えだ。

 なおBT-200AVは、BT-200に「ワイヤレスミラーリングアダプタ」を同梱した製品で、映像をワイヤレスで受信する。価格は、同BT-200が6万4797円(税別、以下同様)、同BT-200AVが8万3315円である。

ソニーのSmartEyeglass Developer Edition

写真2:ソニーのSmartEyeglass Developer Edition写真2:ソニーのSmartEyeglass Developer Edition
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 SmartEyeglass Developer Editionは、ソニーが2015年3月27日から開発者向けに販売している透過式のメガネ型ウェアラブルデバイスである(写真2)。日本、米、英、独の4カ国で販売するほか、法人顧客であれば仏、伊、スペイン、蘭、スウェーデンでも販売する。一般ユーザー向けSmartEyeglassは、2016年内の販売を目指す。

 SmartEyeglass Developer Editionは、メガネ型本体とコントロールボックスからなっている。BluetoothまたはWi-Fi経由でAndroid搭載スマートフォンに接続。アプリケーションは基本的にスマートフォン上で実行する。

 メガネ部分には、独自のホログラム技術を用いたディスプレイのほか、各種センサーを搭載する。ディスプレイの表示色はグリーン単色だ。消費電力を抑えためと、透過式で風景などが背景になった際にもテキスト情報を読みやすくするためという。コントロールボックスには、各種の操作ボタンとマイク/スピーカー、およびバッテリーを搭載する。

 ソニーは、SmartEyeglass Developer Editionの発売に先立つ2014年9月から、SDK(Software Deelopment Kit:ソフトウェア開発キット)を提供している。これまでに、歩行者用のナビゲーションソフト「いつもNAVI for SmartEyeglass」や、ランナーを対象にしたアプリケーションソフト「グラッソン」などが開発されている。

 開発者が実際に利用できるSmartEyeglass Developer Editionを投入したことで、「開発者が持つユニークな発想と、それに基づく多様なアプリケーション開発を促進し、SmartEyeglassをUX(User Experience:利用者体験)の向上を図る」(ソニー)としている。

 SmartEyeglass Developer Editionの日本での価格は10万円である。

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