香港での大型案件の競合相手、北京鳳凰のトップに会うために北京に飛んだ、日本ITCソリューション課長の佐々木と香港支社副社長の森山、そして協業する三井商事の筒井。北京で待っていた筒井の部下、三井商事北京支社の大神が仕入れた情報は、筒井の予想通り、安値攻勢の裏にもう1つ別の案件があった。そんな北京鳳凰に対する攻め処はどこか。ロビーに集合した4人は、夕食を採りにホテルを出た。
5月の北京は、かつては爽やかだった。それも最近は、大気中に浮遊する微粒子PM2.5のおかげで空がどんよりしている。ただ、思っているほどは大気が汚れているという感じはしない。10分ほど歩いて店に着いた。この四川料理の店『紅京魚』には円卓とボックス席があるが、今回は4人だったのでボックス席に案内された。
「ここの四川料理は特に辛いので有名です」。大神はメニューを見ながら説明を始めた。
「名物は、ナマズの一種の江団魚のラー油煮込みと蟹の唐辛子炒めで、・・・」と、料理をみんなに説明しながら、メニューから選び注文した。この店には、草魚とかナマズ、カエル、田うなぎ、ライギョなどの変わった料理がある。そのいくつかを大神は注文した。佐々木は、そのどれも食べたことはなかったので興味津々だった。
料理は結構辛かったが、珍しい魚ばかりだったので話が弾んだ。北京は空気が悪いのと物価が高くなってきたので、日本円で給与が支給されている大神は「生活が大変だ」とこぼしていた。習近平の腐敗撲滅運動のせいで、北京では高価なレストランは軒並み経営不振に陥っている。一方で、経済成長が停滞しているとは言っても、まだまだ不動産バブルの余波があり、街は活況を呈しているといった話に花が咲いた(図1)。
拡大画像表示
なんと言っても、ここ中国は日本と違い、1人当たりGDPが1万ドル以上の都市に住む人口が2010年の1億人から2015年には4億人近くにも増えている。そう考えれば、インフレ率が2%以下という中国政府の公式な発表とは裏腹に、わずか3年で物価が2倍近くも跳ね上がっているのが現状だ(図2)。
拡大画像表示
料理も終わり近くになったところで、森山が話題を変えて、こう切り出した。
「先ほど、大神さんの説明がありましたが、その件で皆さんのご意見をお聞きしたいのですが。大神さんの話では、もう1件、別の入札を彼らが期待しているそうですが、蘇総経理には明日どう話を切り出しましょうか?」
「まずは相手の出方を見ないとなんとも言えませんが、いくつかの対応策は考えておいたほうがいいですね」と筒井が答えた。そこで森山は、佐々木が昨日提案した「相手に対しての信頼をどう取り付けるか」について説明した。
「それでは、彼はアメリカでの生活が長いので、アメリカの話題から入りましょう。それで本題は、どう切り出しますか?」と筒井が言った。
会員登録(無料)が必要です
本連載小説『真のグローバルリーダーになるために』の筆者であり、大手企業のグローバル展開を支援する海野惠一氏自らが登壇するセミナー「あなたの情報収集・分析力ではグローバル競争に勝てない」を3月9日(水)に開催します。是非、ご参加ください。セミナー詳細は、こちらから。
- 1
- 2
- 次へ >
- 日本人の精神を復活させる人材育成の“場”を作れ:連載小説『真のグローバルリーダーになるために』最終回(2016/12/09)
- 【第48回】“卒業”の概念がない塾こそが重要(2016/11/25)
- 【第47回】香港での案件受注が社内の人材育成策の見直しにつながる(2016/11/11)
- 【第46回】英語と専門性、仕事ができるの3要素は必要条件でしかない(2016/10/28)
- 【第45回】香港のプロジェクトは落札できた、だが(2016/10/14)