[市場動向]

APIエコノミーが求めるモバイルアプリのUX改善策、AkamaiのCDNの中で起こっていること

2015年12月22日(火)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

顧客接点としてのモバイルアプリケーションへの期待は高まる一方だ。顧客あるいは従業員が手にするモバイル端末を介して、どんなUX(User Experience)を提供できるかが、企業の競争優位につながるためである。それだけに「つながらない」「表示が遅い」といったことでは逆に顧客離れを引き起こしかねない。モバイルアプリの表示速度改善のための施策の1つがCDN(Contents Delivery Network)である。

 「デジタル化」「デジタルトランスフォーメーション」など、ITを最大限に活用し、企業変革を図ろうとする取り組みや、その必要性を強調する声が高まっている。Systems of RecordからSystems of Engagementへ、「バイモーダル(2つの流儀)におけるモード2など、かつての基幹システムとは異なる領域でのシステム構築と活用が、ビジネス拡大や競争力につながるとの指摘だ(関連記事CIOは“デジタルベンチャーキャピタリスト”を意識せよ)。

 新領域のシステムの代表格がモバイルアプリケーションである。単にスマートフォン上で動作するというだけでなく、顧客に対する窓口はスマートフォンが中心、あるいは、それのみといった新ビジネスが既存のビジネスモデルを揺るがしている。Uber、Airbnbに代表される、各種の決済やマッチングなどのサービスだ。

 アジャイル開発、DevOpsなど、短期間の開発/リリースを繰り返す,より迅速なアプリケーション開発を求める声が高まる背景にも、モバイルアプリケーションの存在がある。新サービスの利用状況をみながらサービスや操作性を改善したり、他社サービスに対抗するために類似サービスを用意したりと、アプリケーションの継続的な開発が続くからだ。モバイルアプリケーションは対顧客の最重要接点であり、そこでのUX(User Experience)がビジネスの優劣を左右する。

 モバイルアプリケーションのUXには、サービス内容だけでなく、操作性や可用性、応答性、セキュリティなど種々の要素が絡む。「使いづらい」「すぐ落ちる」「動作が遅い」といった評判は拡散され、顧客数に影響する。情報漏えいなどへの関心の高まりでセキュリティ対策も不可欠だ。「顧客数が多いモバイルアプリケーションほどセキュリティ対策への意識が高い」という調査結果もある(関連記事Androidアプリの業務利用が加速、脆弱性対策は改善も暗号通信リスクは悪化―ソニーDNA調査)。

米Akamai TechnologiesでWebエクスペリエンス製品担当シニアVP兼ゼネラルマネージャーのアッシュ・クルカーニ氏米Akamai TechnologiesでWebエクスペリエンス製品担当シニアVP兼ゼネラルマネージャーのアッシュ・クルカーニ氏

 応答性の確保も難しい課題だ。サービスを強化したり、操作性を高めたりすればするほど、アプリケーションは巨大化・複雑化するだけに、アプリケーションのアーキテクチャーはもとより、これらをどうトレードオフするかの判断が重要になる。この課題をネットワーク側で改善しようとするのがCDN(Contents Delivery Network)だ。CDN最大手である米Akamai TechnologiesでWebエクスペリエンス製品担当シニアVP兼ゼネラルマネージャーのアッシュ・クルカーニ氏は、現状をこう指摘する。

 「モバイル端末の台数は年々増え、2019年には全世界で42億台になると見られている。2015年にPCの台数を超えるとの予測だったが、2014年に超えてしまった。一方でWebサイトは、より動的になっており、応答性を悪化させている。例えば、Java Scriptの使用率は前年比で22%伸びた。モバイルアプリケーションの応答性の改善は、より重要な課題になっていく(図1)」

図1:モバイルアプリケーションの利用が年々拡大している図1:モバイルアプリケーションの利用が年々拡大している
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APIエコノミーの台頭がトラフィックを増やす

 モバイルアプリケーションの応答性確保で、新たな課題に浮上しているのが「API(Application Programming Interface)エコノミー」の台頭だ。すなわち、SaaS(Software as a Service)に代表されるようにREST(REpresentational State Transfer)APIを使って、複数のサービスを組み合わせて単一のアプリケーションやサービスを構築することが一般化してきている。Akamaiのネットワーク上だけでも既に「1日に2120億のAPIコールが発生している」(クルカーニ氏)。

 このAPIエコノミーに対し、CDNの基本機能の1つであるエッジでのキャッシュは、有効に働くのだろうか。Akamaiが提供するWebレスポンスの最適化サービス「Ion」では、「APIコールから共通エレメントを抽出し重複を排除することで、コンテンツのキャッシュ効果が得られる」(クルカーニ氏)という。

 Ionの実ユーザーである米Weather Companyのケースで言えば、こんなトランザクションのやり取りになる。Weather Companyは『Weather Channel』などを展開する気象情報提供会社だ。

 モバイルアプリケーションで現在地の天気予報を調べたいとしよう。ユーザーが操作したモバイル端末から送り出されるAPIコールには、現在位置を示す情報が含まれる。この位置情報が同じ、あるいは共通エリアからの問い合わせに対し、回答すべき天気予報の情報は同じになる。その位置に対する天気予報情報をキャッシュしておけば、すべての問い合わせがWeather Companyのサイトにアクセスし、そこあら情報を得る必要はない。

 天気予報と同様の処理で、キャッシュの効果が得られる情報は少なくない。近隣店舗、渋滞情報、株価情報などだ。対個人のサービスであっても、共通な要素を抽出することでローカルに処理し、ネットワーク全体の最適化を図る余地はあるというわけだ。ただし情報を最新に保つために、実際にはWebサイトからAkamaiに定期的に最新情報を送り込んでいる。Weather Companyの場合は毎分、更新している。

 現時点で、この仕組みで最適化を図っているメッセージは、IonではHTMLとXML、およびJSON(JavaScript Object Notation)。REST APIで使用率が高まっているデータ交換形式のJSONについては「今後、より高度な機能に対応していく」(クルカーニ氏)という。

 モバイルアプリケーションの応答性確保に向けて、有効なのは上記のキャッシュだけではない。Ionを例に取れば、いくつか仕組みが組み合わされている。モバイル端末から発せられたAPIコールが目的のWebサイトに到着するまでの経路を最短化したり、多様化するモバイル端末の画面サイズに合わせて送信する画像のサイズやフォーマットを最適化したりすることで、ネットワーク負荷を軽減する。画像変換では、やり取りするデータ量が半分になるケースもある。

 さらに、2015年2月にIETF(Internet Engineering Task Force)が制定したWeb通信プロトコルである「HTTP/2」に対しても、プロトコル変換を施している。より高速なUXを提供するために、ネットワーク負荷を減らし、安全に利用できるようにするためのHTTP/2だが、現時点で対応できているのはクライアントのWebブラウザだけで、サーバー側の対応は「1%未満」(クルカーニ氏)にとどまる。「今後、2年程度でサーバー側の対応は進む」(同)とみられるが、その間はプロトコル変換によってHTTP/2の恩恵を引き出す必要がある。

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