香港の鉄道カードシステムを巡る大型案件。その競合相手は中国IT大手の北京鳳凰である。入札での直接対決を避け、共同プロジェクト化を模索する日本ICTソリューションの課長である佐々木は、事業部長の三森とともにプロジェクトマネジメントのノウハウ提供を突破口に共同化を提案する。北京鳳凰の蘇総経理は前向きだが、海外事業部長の郭は反対の姿勢を崩さない。それに対して邱副総経理が話し始める。
「今回の入札予算は多分8億香港ドル(約124億円)ほど。もし某銀行のようにプロジェクトが滞ってしまったら、弊社は間違いなく倒産してしまう。そうしたことも考えてほしい」という蘇総経理の郭事業部長に対する発言を、北京鳳凰の邱副総経理が引き継いだ。
「郭さん、私は総経理の考えに賛成です。例えば、プロジェクトとしては弊社が落札し、日本ITCソリューション様にプロジェクトマネジメントをサポートしていただくのはどうでしょう?要件定義から運用テストまでのスキルとノウハウは弊社も持っていますし、アメリカの支援も得られます。あえて設計・開発の段階にまで日本ITCソリューション様に参加してもらわなくてもシステムは構築できます。だからプロジェクトマネジメントにだけ参加してもらうことにすれば良いのではないですか?」
こうした議論が途中から中国語で交わされるようになり北京鳳凰の3人の間だけで続けられた。駐在経験がある佐々木ですら彼らの中国語にはついていけなかった。三森と佐々木は、ただ彼らの議論が終わるのをじっと待つしかなかった。議論は夜9時を過ぎても続いた。
9時半を回った頃に、蘇が三森と佐々木に、こう話しかけた。
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