香港の鉄道カードシステムを巡る大型案件。入札を前に、日本ITCソリューションでは入札資料の最終検討に入っていた。課長の佐々木は香港支社に先発し、コスト削減の必要性など指摘していた。夜になり佐々木と香港支社副支社長の森山と夕食を採りながら、競合相手である北京鳳凰の創業者などについて意見を交わした。翌朝も早くから、スタッフが集まり資料の検討が始まる。今日は東京本社から苑田専務と三森事業部長も合流する。
「ご存知かもしれませんが、専務と事業部長は今朝8時55分発の便で香港に向かうという連絡が入っています。香港支社には午後2時過ぎには到着されるでしょう。それまで時間がありますので、昨日の懸念事項についてもう一度打ち合わせをしておきましょう」
そう言う森山に佐々木が呼応した。
「そうですね。最大の懸念事項は北京鳳凰との関係をどうするかです。これまでのシナリオでは北京鳳凰の名前は出していませんが、中国企業との実質的な共同プロジェクトなっています。いずれにしても我が社単体では、このプロジェクトは推進できませんから、資料そのものには問題はないと思います。ただ問題は北京鳳凰との話し合いの中身でしょう。苑田専務は入札で北京鳳凰が勝つことを潔しとはしないでしょう」
この一言を受けて、入札資料検討会の資料の懸案項目を逐一議論していった。佐々木が言う。
「まあ、工数的にはなんとか固まりましたが、どこかでちょっとヘマをするだけで、すぐに予算をオーバーしてしまいます。上流工程ではなく、ユーザーを交えた運用テストで問題が噴出することが多々ありますから、ユーザーとのすり合わせは現状調査と要件定義の段階でしっかりやらないとまずいです。
そして今回は作業がすべて英語になるだけに、日本側のスタッフと彼らの考え方の間で齟齬(そご)が発生しやすいと思います。そのための対策と時間的なオーバーヘットは考慮しましたが、この点は心配してもきりがありません」
佐々木と森山の2人は、香港支社の4人のメンバーとともに延々と議論をした。昼はメンバーに買って来させたハンバーガーで済ませた。
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