鉄道カードシステムを巡る香港での大型案件の入札を前に、日本ITCソリューションは最後の検討を進めていた。案の定、専務の苑田は競合相手である北京鳳凰の下請けになるような受注にはダメを出した。共同化の道を探るべく、北京鳳凰に蘇総経理と、彼の父親でもあるか董事長と会談する。北京に発つ、その日の朝、日本ITCソリューション課長の佐々木が目を覚ますと、専務や事業部長と待ち合わせた9時半を過ぎていた。
「もしもし、佐々木ですが。寝坊をしてしまいました。申し訳ありません。次の便で向かいますが、多分先方との会議の時間までには間に合わないと思います。大変に恐縮ですが先に始めていただけませんでしょうか」
北京便に合わせ、苑田専務と三森事業部長とラウンジで9時半に待ち合わせていたた。だが、佐々木が目覚めたとき、時計の針は既に9時半を回っていた。慌てて携帯電話で三森事業部長に電話した佐々木だった。ただ、そういうことに三森は気さくな男で「大丈夫、心配いらない」と言って電話を切った。
佐々木は支度を急ぎながらも、孫子の兵法の軍争篇にある「迂直の計」のことを思い出し、ここは「急がば回れだ」と自らに言い聞かした。
「孫子曰く、凡そ用兵の法は、将、命を君より受け、軍を合わせ衆を聚(あつ)め、和を交えて舎(とど)まるに、軍争より難きは莫し。軍争の難きは、迂を以て直と為し、患(かん)を以て利と為すにあり。故に、其の途を迂にして、之を誘うに利を以てし、人に後れて発するも、人に先んじて至る。此れ迂直の計を知る者なり」
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この意味は以下の通りである(図1)。
「およそ戦争のやり方は 将軍が君主より命令を受け、 軍隊を編成し兵士を招集し、 敵と対峙してとどまるのだが、 機先を制するより難しいことはない。 機先を制する難しさは 曲がりくねった道を真っ直ぐとし、 不利な状況を有利にすることである。つまり、曲がりくねった道をとり、我方の進軍には時間がかかり、敵に利ありと思わせ油断させ、 敵より後れて出発し、敵より先に戦場に行き着くのだ。これが迂直の計を知る者のやり方なのだ」
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