組織全体で生産性を高め、イノベーションを生み出す真のワークスタイル変革を実現するためには何が必要なのか。前編では、PwCコンサルティングの井手健一氏に、ワークスタイル変革の重要性が高まるに至った背景、企業での現状、求められる考え方、基本要素について解説してもらった。後編は、実践編として、ワークスタイル変革プロジェクトを成功させるための有効なアプローチを紹介する。

生産性を大幅に高める期待のテクノロジー「RPA(Robotics Process Automation)」

 前編でも述べたが、今、政策課題としてワークスタイル変革が推進されている。その気運に乗って、今後、一気にワークスタイル変革は進んでいくのだろうか。残念ながらこれまで日本企業は、サブロク協定(36協定)などの例にあるとおり、法律で規定されたとしても、抜け道を探して残業をするスタイルを維持してきた。今の機運においても、制度を少し変えただけ、それで終わってしまう可能性もある。

 しかし井手氏は、「グローバル競争を考えたときに、日本は今の生産性世界ランク21位のままでよいわけがありません」と力説する。「単なる生産性の向上だけにとどまらず、イノベーションを起こすためのITを実現していく必要があります。それには、ビジネスプロセスというより、個人のビヘイビア(Behavior:ふるまい)を変えることが強く求められます。とりわけ、私たちが日々相応の時間を費やしながら行っている情報探索や定型作業などの作業を、いかにデジタルによって自動化していくか。これはきわめて重要です」

 井手氏の言う情報探索や定型作業を自動化するテクノロジーは、現在、RPA(Robotics Process Automation:ロボティックプロセス自動化)という名称で注目度が急上昇しているという。RPAは、端的に言うと、これまで人間がやってきた定型作業を、ソフトウェアアルゴリズムを駆使して自動化していくという分野だ。

 例えば、実際の業務において、Aというシステムのデータ画面を見ながら、Bというシステムに入力していく作業を行う局面はよくあるだろう。そういった定型作業に、相当長い時間を取られてしまっている職種は非常に多い。

 「ここでRPAを活用した場合、Aの画面を解析し、Bというシステムに自動で入力する作業をソフトウェアロボットが行ってくれます。従来のITシステムであれば、システム間連携などを実現するためのソフトウェア開発が欠かせなかった。しかし、RPAを活用すればその開発は不要となるのです」と井手氏。このRPAのテクノロジーが成熟し普及すれば、定型作業はロボットに任せてしまい、人間はより価値の高い仕事に取り組める――そんな時代がまもなくやってくるだろう。

 グーグルも、「サービスの使い分け」において生じる生産性のロスを取り除こうとしている兆候がある。同社は2016年9月7日、Googleドキュメントやスプレッドシートなどを格納するストレージとして、企業向けコンテンツマネジメントクラウドの「Box」が利用できるようにしたと発表した。つまり、グーグルの企業向けサービスの検索対象としてBoxが利用できるようになったということであり、あらゆるクラウドサービスに格納されているデータを横断的に検索できるような時代がもうそこまで来ているのだ。


[Information]
本記事の解説を行ったPwCコンサルティング シニアマネージャーの井手健一氏が、IT Leaders Forumワークスタイル変革セミナーのパネルディスカッションにモデレーターとして登壇します。聴講無料、ふるってご参加ください!

●開催日時:2016年11月29日(火) 13:00~17:10 会場:ベルサール神田
IT Leaders Forum 競争戦略としてのワークスタイル革新
――コミュニケーション活性、そしてイノベーション創出へ