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日本のエンタープライズはAWSをこう使う!レーベルゲートとヤンマーが語った"AWSの恩恵"

2017年6月7日(水)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)

5/31 - 6/2の4日間に渡って東京・品川で開催されたAWSの年次カンファレンス「AWS Summit Tokyo 2017」は2万人という過去最高の登録来場者を記録し、大盛況のうちに幕を閉じた。現在、国内のAWS導入企業は約10万社と言われているが、数が増えたのはもちろんのこと、その質も非常に多様化している印象を受ける。今回はAWS Summit Tokyo 2017で聞いた2つの導入事例セッション - レーベルゲートとヤンマーによるユニークなAWS活用事例を紹介する。

AWSでなければできなかった ― Snowballで300テラバイトの音楽データを一度に移行したレーベルゲート

 2000年にソニー・ミュージックエンタテインメントが中核となってレコード会社の共同出資で設立されたレーベルゲートだが、2004年に世界初のレコード会社が運営する音楽配信サービス「mora」を立ち上げ、急速に知名度が高まった。AWSの利用を開始したのは2012年10月、コンシューマ向けサービス(配信サービス)の一部にAWSを使ったのが最初だった。

(写真1)レーベルゲートの久慈道晃史氏

 「以前から興味があったが、実際にAWSを使い始めると"これはすごい!"と実感。以来、2014年にはオンプレミスのサーバ購入を停止、2016年には仮想環境のAWS移行を開始し、2017年内にはAWSへの全面移行が完了する予定」とレーベルゲート 配信ビジネス部 ソリューション課 課長 久慈道晃史氏は語っている。

 レーベルゲートでは2017年4月現在、ストレージサービスの「Amazon S3」、高速コンテンツ配信サービスの「Amazon CloudFront」、マネージドデータベースの「Amazon RDS」などを主に活用している。稼働中のEC2インスタンスの数は100、導入したばかりの2012年10月は10インスタンスだったので、単純に考えれば5年で10倍の勢いでAWS活用が進んだことになる。製品管理システムからストアシステム、配信システム、さらにはアカウント管理サーバや決済サーバを含む基幹システムに至るまで、あらゆるところでAWSクラウドが活用されているという。

(写真2)レーベルゲートのAWS利用の規模の変化(2012年→2017年)。いずれのサービスも大幅に利用規模が拡大しているのがわかる
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 AWSを日常的に使いこなしているレーベルゲートだが、ここ最近のチャレンジングな取り組みが「300テラバイトの音楽データのオンプレミスからS3への移行」だったと久慈道氏は言う。moraで提供する楽曲はハイレゾ音源だと1曲あたり200メガバイトにもなる。サービスが拡大すれば当然、楽曲数も増え、その分ストレージの消費量も加速する。「1カ月で10テラバイト以上増加したとき、これ以上はオンプレミス環境では無理と判断、S3への移行を決意した」(久慈道氏)という。

 しかし300テラバイトものデータを一気にクラウドに移行するための手段はそう多くない。「インターネット回線を使えば追加コストゼロで可能だったが、1日あたり0.5テラバイトしか転送できず、移行完了までに600日もかかってしまうことになる。データセンターから専用線を引くことも考えたが、転送量は10テラバイト/日であるものの費用がかかりすぎる。必要日数も契約や準備を含めると60日かかることがわかり、もう少し短い期間で移行したかった」(久慈道氏)と悩んでいたレーベルゲートが最終的に選んだのは、まだ東京リージョンでは正式サービスがローンチされていない「AWS Snowball」だった。

 Snowballは2015年のAWS re:Inventで発表されたペタバイト級のデータをクラウドに移行するためのソリューション。ユーザーはAWSから提供されるSnowballアプライアンスにデータを転送し、AWSにアプライアンスを送り返す。S3へのデータ移行はAWS側で速やかに行われ、その後、アプライアンス内のデータは消去されるしくみだ。転送速度は1日あたり10テラバイトで、2日間の準備期間も含めて移行に必要な日数は32日で済む。

 Snowballには80テラバイトモデルと50テラバイトが用意されているが、レーベルゲートのデータは300テラバイトだったため、80テラバイトのアプライアンスを5台使って移行したという。

 コストについては「ジョブごとの利用料が1アプライアンスあたり250ドル、転送期間が10日を超える場合は1日あたり15ドルの追加利用料金が発生するが、非常に安価に済ませることができた」と久慈道氏は振り返っている。

 もっとも今回の移行に関しては、試算では32日だったが実際には完了までに49日かかってしまったという。その理由として久慈道氏は「転送速度の見積がやや甘く、もっと多くの種類のデータを使って見積をすべきだったと反省している。また、環境によりスループットがなかなか出ないこともあった」ことを挙げている。

 しかし実質的に一度の更新で済んだこと、他の方法よりも短期間で移行が完了したこと、転送作業も準備も非常に簡単で作業者がひとりで済むこと、そして「S3に移行したことで、オンプレミスのデータ管理/運用から解放された。このことがいちばん大きい」(久慈道氏)とSnowballによる大量データ移行のメリットを強調する。

(写真)レーベルゲートがSnowballを利用した際の環境。試算よりスループットが出なかったため、実際にはやや想定よりも時間がかかったが「結果にはおおむね満足している」と久慈道氏

 Snowballは現在、東京リージョンではプレビュー版での提供にとどまっているが、re:Inventでの発表以来、国内ユーザの間でも関心の高いサービスである。2017年内の正式提供開始が期待されているが、すでにその前にこうした国内事例が発表されていることは、Snoball検討中の企業にとって非常に影響が大きいはずだ。

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