“進撃のアマゾン”と“リアルの逆襲”─ウォルマートへの期待を込めて
2018年12月13日(木)CIO賢人倶楽部
「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り組みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、株式会社トライアルホールディングスで取締役副会長 グループCIOを務める西川晋二氏のオピニオンです。
トライアルホールディングスの西川です。今回は筆者の仕事に直結した流通小売業界のグローバル─主に米国─なトピックについて、筆者の思いを加えて書かせていただきます。
早速ですが、皆さんは「Death By Amazon(Index)」という言葉をご存じでしょうか? 知らない方も想像がつくと想いますが、訳すと「アマゾン恐怖銘柄指数」です。具体的にはアマゾン・ドットコムの事業拡大や新規参入などの影響を受けて、業績の悪化が見込まれる米国の小売関連企業銘柄54社以上で構成する株価指数のことで、米国の投資情報会社であるベスポークインベストメント(Bespoke Investment Group)が2012年に設定しました。2016年頃から一般的な株価指数より大きく下降側に乖離し始めたことで注目を集めました。
下降側に乖離することは、すなわちアマゾンの躍進によってマイナスの影響を受けるデパートや専門店、小売業が増加していることを意味します。このコラムのタイトルでは、これを「進撃のアマゾン」と表現していますが、筆者は2018年11月に米国に出張し、その実態をこの目で確かめてきました。
アマゾンが買収したホールフーズマーケットの現状
1つが核テナントのシアーズやJCペニー、メーシーズといった百貨店や専門店の閉店が相次いでいるショッピングモールの苦境です。ショッピングモールと言えば米国の中間層以上にとっては当たり前の、なくてはならない存在。しかし訪問したオハイオ州シンシナティのショッピングモールでは、シャッターが降りた店舗が散見され、客もまばらでした。もともと売り場面積が過剰だったところに、アマゾンなどのネット販売が加わり、今では米国各地にあるショッピングモールの3分の1ほどが衰退、そして閉鎖の危機に直面していると言われます。
もう1つが「進撃のアマゾン」を象徴する米高級食品スーパー、ホールフーズマーケット(Whole Foods Market)の視察です。周知のようにアマゾンは2017年8月に同社を買収しました。それはアマゾンがリアル店舗を展開する小売業も飲み込んでいくというストーリーの下で衝撃を持って受け止められ、Death By Amazon Indexを大きく引き下げる結果をもたらしました。1年以上経ってホールフーズの店舗はどうなっているのかを、見に出かけたのです。
色々、面白い発見があったのですが、中でも印象的だったのはネットで注文した商品を購入者が引き取りにいく買い物方法として、ホールフーズの店舗(約450店)を活用していることでした。「クリック&コレクト」と総称されるものです。簡単に説明すると、アマゾンの独自配達網による配達や第3者の運送事業者による宅配は便利な半面、国土が広い米国では日本のように再配達は困難なので不在時の配達にどう対処するかという面倒な課題があります。
よく知られた話ですが、米国では顧客が不在の時、配達員が商品を玄関先に置いていくだけのケースがあります。当然、盗難に遭う可能性がありますから、配達がある時にはなるべく家にいなければなりません。これでは不便なので、アマゾンは配達員が玄関ドアを解錠できる「Amazon Key」を提供するなどしていますが、配達員とはいえ不在時に自宅に入られるのは嫌な人も少なくありません。
この課題への対策がクリック&コレクトです。訪問した店では入り口周辺に専用のコーナーが設けられていました。ネット注文に応じて店内から集めた商品を紙袋に収め、レシートを貼付した“ピックアップ待ち買物袋”が、急ごしらえ感が否めないスチールラックに所狭しと並べられていたのです。アマゾン・ドットコムで購入した商品も、もちろん受け取れます。こちらは店舗に備え付けられたロッカーを顧客がスマートフォンで操作してピックアップする仕組みです。仕事帰りなどで最寄りの店舗に立ち寄れば確実に受け取れますから、アマゾンにとっても顧客にとっても優れた解決策と言っていいでしょう。
ネット販売だけで流通小売業は制覇できない
とはいえ、これは裏を返せば「ネット販売だけで流通小売業は制覇できない」ことを意味すると考えられます。アマゾンは年率30%を超える勢いで成長していますが、それでも小売業の売上高に占めるネット販売の割合は米国で9%ほどであり、ざっと全流通小売販売額の10分の1でしかありません。したがってDeath By Amazon Indexを構成する54銘柄の流通小売企業のすべてが、衰退のシナリオ通りの道を辿るわけではないということです。
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