「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り組みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、KPMGコンサルティングでディレクターを務める山口隆二氏のオピニオンです。
皆さんは「プロセスマイニング」を聞かれたことがあるだろうか? 最近になって耳にする機会が少しずつ増えているキーワードの1つである。現職でプロセスマイニングツールを活用したサービス開発を担当する筆者の認識では、2018年から世界中のさまざまな国、企業で爆発的に導入が進み、日本でも2019年になって伊Cognitive Technologyの「myInvenio」や、独Celonisの「IBC(Intelligent Business Cloud)」といったツールの提供や導入が始まっている。
かくいう筆者も恥ずかしながら、1年前には全く知見を持っていなかった。縁あって担当となってから理論を学び、導入事例を収集したりツールの活用法やソリューションを考えるようになった次第である。そして知るにつけ、革新的な手法でありツールであるとの思いを強くしている。そのような立場から、ここでプロセスマイニングの概要、導入のメリットや課題などを紹介させていただきたい。
プロセスマイニングは、申請、受付、承認などの情報システムに蓄積されたイベントログなどを収集し、業務プロセスを網羅的に可視化、分析する手法・ツールのことである。別の表現をすれば、プロセスに関わるログデータをマイニング(掘削)し、現実に行われたプロセスを再構成するものだ。その対象は、調達から製造、品質管理や販売のほか、経理財務や人事など、企業のあらゆる業務に及ぶ。業務のムダやリスクに繋がる課題などの発見を、効率的に行う手法・ツールでもある。
業務プロセスを可視化、分析するのは易しくない
それでは、なぜプロセスマイニング・ツールの活用がそれほど重要なのかについて、従来の方法による限界の観点から説明したい。まず業務プロセスの強さ、スピード、業務品質、業務におけるリスクへの対応力が企業の競争力を左右する重要な要素であることは言うまでもない。そのため、多くの企業は以前から『○○業務プロセス改革プロジェクト』と名付けた取り組みを実施してきた。もちろん当社のようなコンサルティング会社でも、多くの支援を行ってきたテーマである。
特に近年では働き方改革の一環として、定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)の導入が業務改革の手段の1つとして急速に進んでいる。その際、業務実態を可視化し、有効性や改善機会を分析し、その上で改善策を実行(RPAを導入)することが必要であり、特に可視化と分析が、成否の分かれ目となる。
しかし業務実態を可視化するには、事業や業務特性の把握やリスクの知見、インタビューや明文化のスキル、業務改善策のノウハウなどが必要であり、これらを併せ持つ人材は稀有である。またプロジェクトを編成してまで変革するような対象は、通常、複数の部署や人が関わる膨大で複雑なものであり、難度が高くなりがちである。業務プロセスを構成するタスクに要する時間を定量的に捉えることも現実的には難しい。
可視化/分析の正確性や説得力が高くないと、改善策に対する関係者の納得感の醸成が困難になる問題もある。「理論上はそうかもしれないが、現場はそれでは動かない」といった抵抗に遭い、ひどい場合にはプロジェクトが頓挫してしまう。既存プロセスの可視化と分析は、ことほどさように一筋縄ではいかないのである。
その結果、従来の業務プロセス改革の取り組みでは、限定的な成果にとどまるケースが多く見られることになった。RPAの導入も似たようなものであり、劇的な効果を得るケースがある一方で、思ったような効果を得られないことも少なくない。人手に依存する例外処理が想定外に多く期待効果に達しない、といったことが典型例である。読者にも、このような経験をした方がおられるのではないか。
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