「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、PwCコンサルティング パートナー 荒井慎吾氏のオピニオンである。
経済産業省のDXレポートが経営陣に警鐘を鳴らしたこともあり、昨今、コンサルティングの現場ではデジタル化に向けた相談が多い。中には世間がDXと騒いでいるため、「当社も何かやらなくては」という漠然とした依頼や、経営陣から「AI、IoTのテクノロジーを活用して何かできないのか?」と言われて、現場が慌てて相談してくる残念な例も実際にある。もっと残念なのが、「我が社はRPA導入でDXを推進している」と安心している経営陣である。
もちろん、それらはDXの本質から遠い。本質はテクノロジーを活用した新たなビジネスモデルの創出と、そのケイパビリティ(capability)の獲得に向けた組織全体のトランスフォーメーションにある。では前者はさておき、後者、つまりDX推進のためのケイパビリティをどのように確保していくか? 結論から言えば、以下の4つのオプションが考えられる。
(1)自社でDX人材を確保・育成する(内製化)
(2)外部からDX人材を獲得する
(3)ITベンダー(コンサルタントを含む)を使い、ベンダーマネジメントに徹する
(4)ITベンダーと協業する(または買収する)
DXケイパビリティ獲得の4項目を考察する
それぞれについて考察しよう。まず、(1)自社でDX人材を確保・育成する(内製化)は理想ではあるが、相当に時間を要する。ましてや基幹系システムの開発・運用を担う既存のIT部門だけでDXを推進することは困難だ。DXは潜在的なニーズに対して、テクノロジーを活用して新しい顧客体験の価値を作り出す必要がある。
これは社内の事業部門から顕在化したニーズをヒアリングし、要件を整理してシステム化する従来のアプローチとは根本的に異なる。テクノロジーに関する知識に加えて、顧客やエンドユーザーに対する深い洞察も必要だし、アジャイル開発、DevOpsなど新たな開発手法の獲得も必要だ。しかし自社の事業にも、新しいテクノロジーにも精通した人材は少ない。事業に精通した事業部門とテクノロジーに精通したIT部門の人材が一体となって推進する必要がある。
また、DX推進に必要なすべての機能を完全に内製化することは現実的ではない。競争優位の確立に向けて自社でノウハウを保有すべき機能、外部に任せていてはスピード感が出せない機能など、自社が最低限保持すべき機能を見極め、外部リソースで補完することが現実的である。まずは何をインソースし、何をアウトソースするか、ソーシングの方針が必要だ。
次に、(2)外部からDX人材を獲得するについては、昨今、プログラミングに長けた人材やデータサイエンティストなどの争奪戦が世界中で繰り広げられている。日本企業の人事制度のままで、こうした争奪戦に参加するのは難しい。そこで一部の日本企業は役員級の待遇での中途採用や、破格の報酬で優秀な新卒を獲得できるよう人事・給与制度を見直し始めた。
ただし、この取り組みは必要条件ではあっても、十分条件ではない。他社に見劣りしない報酬を提示して優秀な人材を獲得したとしても、経営トップが世の中を大きく変えるワクワクするようなビジョンや方向性を示したり、強力なリーダーシップを発揮したりしないかぎり、すぐに見透かされて辞められてしまうだろう。
●Next:オプションの実行に不可欠なものは?
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