顧客データの活用に向けた具体策として、米国発の戦略的マーケティング「ABM(Account Based Marketing)」への関心が国内でも高まっている。ただし、ABMはその性格から、実践にあたってはいくつかの事前準備が必要だ。「データマネジメント2020」のセッションでは、ランドスケイプの湯浅将史氏が、ABMの実践を阻む壁と克服に向けたアプローチについて、事例を交えつつ紹介した。
米国発の戦略的マーケティングを阻む“壁”
顧客や見込み客のデータを統合し、マーケティングと営業の連携によって、ターゲットとする企業からの売上げ最大化を目指す――。米国発の戦略的マーケティング「ABM(Account Based Marketing)」に対する関心は国内でも高まる一方だ。
それも当然だろう。マーケティングや営業の現場ではすでに多くのITツールが利用され、顧客をより広く、深く理解するための新ツールの採用も相次ぐ。この状況にあって、そこに格納された膨大な顧客データを活用するというABMのアプローチは、いずれの企業にとっても極めて馴染みやすいからだ。
ただし、その推進にあたっては大きな課題も残されている。それが、DB設計がツールごとに異なるために、同一データであっても異なる粒度・精度で管理されるケースが多いことだ。
ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員の湯浅将史氏は、「ABMでは顧客を特定するうえで社名が鍵になりますが、日本語特有の問題で一意に管理出来ないケースが多く存在します。例えば同じ社名でも、英語か片仮名かなどの表記ルールによっても違いが生じます。加えて、DBのメンテナンスを怠ったことで新旧の社名が混在することも現実として数多い。こうした状況でデータを統合しても、同一企業のデータとして活用が進みません」と説明する。
実際に、ランドスケイプが実施した「BtoB企業における顧客情報管理・活用に関する実態調査レポート2019」によると、顧客情報の管理に「問題がない」と答えた企業はわずか2割ほどだという。
全国820万拠点の企業データを格納した法人マスタ
この状況を踏まえ、湯浅氏がABMの推進に向け必要性を訴えるのが、データ統合時に同じ企業を異なる企業と見誤らせないための「データトランスフォーメーション」だ。その推進を通じ、ツールをまたいだ情報連携や活用が容易となり、より精度の高い見込み顧客の抽出が可能となる。
では、データトランスフォーメーションはどうすれば実施できるのか。キーワードとして湯浅氏が紹介したのが、標準化(Normalize)、一元化(Integrate)、補正(Correct)、属性付与(Enhance)の頭文字を採った「NICE」である。
「NICEのポイントは、新たに拠点単位の法人管理コードを割り振ることによるマッチングと恒常的な企業情報の自動メンテナンスにあります。前者により、新旧社名が入り混じる場合でも、それぞれに同一の法人管理コードを付与することで、DBをまたいで同一企業と判別することが、後者により、データ品質を高く維持し続けることが可能になるのです」(湯浅氏)
このNICEの推進を支援すべく、ランドスケイプが構築した法人マスタが「LBC」だ。その一番の特長は上場企業から中小企業まで、工場や拠点などの含めた全国820万拠点、国内網羅率で99.7%にも上る企業データを、マッチングに用いる11桁の法人管理コードを採番したかたちで格納していることだ。それらは日々、官報などの公開データや電話帳、公官庁への開示請求、電話調査などを基にメンテナンスされているという。
併せてランドスケイプでは、このLBCによるデータクレンジングから最新データへの置換、属性付与などの作業を自動的に実施するクラウド型の顧客データ統合サービス「ユーソナー」も提供。使い方も極めて簡単で、名寄せしたいデータをユーソナーに連携するだけ。あとはユーソナーがLBCと連携することで、一連の処理が完了する。各種CRMツールとの連携も可能だ。
既存顧客と類似企業を抽出し転換率を7倍に
LBCの利用で成果を上げた企業はすでに数多い。そのうちの1社として湯浅氏が紹介したのがヤフーだ。
インターネット広告を直販と代理店経由で販売するヤフーでは、数年前に営業組織を再編。狙いは営業活動の高度化に向けた、商材ごとに散在する顧客DBの一元化だ。その一環として同社ではLBCでDBごとの表記の揺らぎの修正や、データの粒度や精度の統一作業を実施。加えて、既存顧客の属性データを基に既存顧客と類似する未開拓企業を抽出するランドスケイプのサービスも利用することで、営業時の顧客転換率を従来の7倍も増加させることに成功したのだという。
また、オウケイウェイヴでもLBCによりDBの精度を抜本的に向上させている。
同社では、契約先や見込客の企業情報をCRMシステムで管理している。だが、そこで課題となっていたのがセミナーやイベントで毎月のように交換・登録される名刺データやWebからの問い合わせ情報などが、同じ会社でも社名表記の揺れや登録される企業属性情報に不正確なケースが存在することだ。
CRMにこれらの情報を重複しないように連携させるために多くの工数をかけても精度が上がらない。企業属性の確認にまでは手が回らないという問題が生じていた。
この問題もLBCにより、CRMへのデータ連携は翌日までには自動的に行われ、保有している見込客の企業属性情報の付与率を4倍に上げることができた。
ランドスケイプではLBCやユーソナー以外にも、LBCのデータと連動させたリードジェネレーション強化ツール「サイドソナー」や、普段使っているメールの署名欄をコピー&ペーストするだけで、LBCのデータを基に、必要な情報を判別・分割し、フォームへ自動入力する入力支援ツール「かんたん登録」など、企業情報に着目したデータ活用ツールを幅広く提供している。人材系の大手企業では「かんたん登録」導入後、リード獲得のパフォーマンスが1.6倍に向上した。リード獲得からマーケティング、セールス活動に至るまで、データトランスフォーメーションを多角的に支援している。
●お問い合わせ先
株式会社ランドスケイプ
URL: https://www.landscape.co.jp/
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