システム開発を請け負うITベンダーには、ユーザー企業と契約をする元請企業とそこから発注を受ける下請けの受託企業がある。このうち後者の受託企業から、「ユーザー企業と直に契約してシステム開発をしたいが、どう進めればよいのか?」という相談をよく受ける。「下請け以外にユーザー企業ダイレクトの仕事を始めたがうまくいかずに困っている」といった相談もある。筆者の経験から思うところを述べよう。
ユーザー企業と直接取引したい受託ベンダーの悩み
下請けのシステム受託開発を中心とするITベンダーが、ユーザー企業と直の仕事をする大きな目的は、利益率の違いにある。受託は安定しているが、当然ながら利益率は高いわけではない。ベンダーの経営者は、自社の発展や社員のモチベーションを上げるためにも、リスクはあってもリターンの多いユーザー会社と直の仕事をしたいと考えている。そういった企業が多くなれば、ユーザー企業の選択肢が増えるから利点がある。以下、この問題を改めて考えてみたい。
下請けの受託企業は概して、ユーザー企業のことを「エンド」という言い方をする。直接の顧客である元請けの、その先といった意味だろう。そしてそのエンドの現場を知らない。事業部門はおろか、情報システム部門の人たちと直接コミュニーションする機会もほとんどない。当然、エンドを対象にしたマーケティングの経験はないし、営業を仕掛けたこともない。
逆に、直接的な顧客である元請けベンダーとの契約は定型化しているし、営業といっても接待やご機嫌伺いくらいだろう。ユーザーニーズを把握して案件獲得に工夫を凝らす本来の営業活動とは異なっており、したがって体制そのものが下請け企業と元請企業では違ったものになる。直接取引の進め方がわからない、取り組んでもうまくいかないのは、自然である。
今なお残る、ユーザーとベンダーの相互不信感
少し見方を変えてみよう。ユーザー企業とベンダー企業が一堂に会する委員会などに参加していると、いまだに両者の軋轢を強く感じる。ユーザーはベンダーに対して不信感があり、ベンダーはユーザーに警戒感を持っていることが発言の端々に出てくる。パートナーシップとは程遠い実態があるが、このような不信感がユーザーから新規のベンダーを遠ざけ、ベンダーには下請けのほうが安定的という構造を招いたと思う。
最初からこうだったわけではない。メインフレームからオープンシステムへと移行する頃から、ユーザーのベンダー依存が高まり、徐々に丸投げするケースも増えた。時間の経過と共に開発の実態がわからなくなり、無理な要件、例えば受託会社にとっては赤字になる要件を通そうとする。次の案件で利益を出せた時代もあったが、景気低迷が長引く中で難しくなった。
結果として、システム開発に伴うトラブルや係争が増えた。筆者はその根源がユーザーの主体性と発注の姿勢にあると考えている。もちろんベンダーにも甘さがある。開発を受託したものの、ノウハウや技術力が足りずにプロジェクトが破綻するようなケースだ。こういう背景を理解した上で、現場のニーズをとらえ、パートナーになるべく活動して信頼を得れば、エンド開発案件の受注も悩みではなくなるだろう。
ユーザー企業を十把一絡げで考えてはいけない
ベンダーが顧客対象としてユーザー企業を見るとき、注意しなければならないことがある。業種・業態の違いや企業文化の違いは当然として、システムに対する姿勢の違いもあることだ。
A、 B 、Cに単純化して考察してみる。タイプAは、システム部門の主体性が強くシステム内製にも取り組んでいる意識の高い企業。タイプBは、システム部門はあるが積極的な主体性はなくシステム開発を外部に依存している多くの企業。タイプCは、システム担当者はいるが外部依存が強くほぼ丸投げでシステム開発するような企業としよう。
下請けの受託企業がエンドを顧客対象として仕事をするなら、タイプAを探すべきだ。タイプAは必ずしも元請け大手に発注するわけではない。技術力や自分たちのニーズに合わせて委託先を選択する力がある。それだけに、契約もプロセス管理も厳しく、利益幅は少ないかもしれない。しかし非条理な値切りはしないだろうし、開発リスクも少ない。利益を得ながらエンドの現場の理解を高めることができるだろう。
逆につきあうべきでないのはタイプCである。一見、与しやすそうに思えるが、受託企業側に相当の力がないと火傷を負う可能性がある。案件を重ねてユーザー企業は十把一絡げではないという理解が進んだら、タイプBやタイプCからも受注する機会を増やしていくことをお勧めしたい。
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