[木内里美の是正勧告]

Go Toキャンペーンに見るシステム設計の難しさ─鷹の目、蟻の目、それに心の目を持とう!

2020年11月24日(火)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

2020年11月半ばになって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第3波が全国に押し寄せて、政府の「Go Toキャンペーン」の実施継続の是非が議論されている。筆者が東京都民として実際にGo Toを利用してみて感じた点を述べてみる。こうしたシステムや制度を設計することの難しさは、情報システムの世界にも通じている。

 コロナ禍で停滞してしまった経済活動活性化の切り札政策として、政府主導で「Go Toトラベル」「Go Toイート」「Go Toイベント」「Go To商店街」の4本柱から成るGo Toキャンペーンが実施されている。なかでも目玉と位置づけられるGo Toトラベル事業は観光・運輸業の支援を目的として、2020年7月23日の海の日から始まる4連休に合わせてバタバタと制度設計された。同日のチェックインから2021年2月1日のチェックアウトまでを対象期間として運営されている(画面1)。

画面1:Go Toトラベルの旅行者向け公式サイト(https://goto.jata-net.or.jp/

 これを利用すると、宿泊料金あるいは旅行パッケージ料金が最大35%も割引になる。消費者には魅力的な内容で、コロナ禍にあっても大いに消費行動が促され、普段は利用を躊躇するような高額な宿や著名な宿がすぐに予約で満室になった。ところがキャンペーンが始まった頃、東京都は感染拡大第2波の真っ只中にあり、東京都発着の旅行や東京都の施設は9月30日まで対象外とされた。人口規模の大きい東京が除かれたことで、効果が限定的になったのである。

バタバタのGo Toキャンペーン

 一方で、受け皿となる旅行事業者の準備が間に合わなかったり、零細事業者が事業参加できなかったりといった事態も発生した。7月27日以降に準備ができた事業者から割引済みの旅行商品を提供することになり、7月31日には事業の公式サイトもオープンしたが、事業者側も利用者側も仕組みが分かりにくく当初から混乱していた。結果として事前処理が間に合わず、7月22日から8月31日までを対象に、事後還付制度が導入された。

 10月1日からは地域共通クーポン制度が加わった。宿泊料金あるいは旅行パッケージ料金の15%が紙または電子のクーポン(金券)として支給され、当該宿泊エリア(隣接都道府県を含む)の対象店舗などで利用できるというものである。宿泊などの割引と合わせると最大50%割引となる特典だ。同日にはGo Toイート事業もスタート。飲食予約サイト経由でレストランなどを予約すると、昼食は500円、夕食(15時以降)では1000円がポイント還元される。

 11月に入ると、観光を目的としない出張などにはGo Toトラベルを適用しないとか、会社宛の領収書を求めるものは対象にしないとか、そんな制度変更もあった。Go Toイート事業では予定された数量に達して早々に終了したサイトもあり、以後はプレミアム付き食事券が都道府県ごとにアナログで(一部自治体はデジタルも)提供されている。

何事も体験、Go Toトラベル/イートを使ってみた

写真1:Go Toトラベルの地域共通クーポン取り扱い店舗であることを示すステッカー
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 何事も体験しないと本当のところは分からない。東京都民である筆者は、除外が解禁され地域共通クーポン制度も始まった10月に入って、いくつかを体験してみた。宿泊予約には旅行会社を通じて行うものと予約サイトから行うもの、および直接宿泊事業者に予約するものがある。試したのは予約サイトからと、宿泊業者に直接予約する方法である。予約サイトからはすべてがデジタル処理で、宿泊業者に予約する場合は電話によるアナログ処理だった(写真1)。

 デジタル処理は予約の決済時に35%の割引が適用され、地域共通クーポンは電子クーポンで宿泊当日の15時以降にダウンロードができる仕組みになっている。スマートフォンは当然必須だが、ある程度使い方に慣れていないと電子クーポンは戸惑うだろう。例えば、クーポンをダウンロードするには指定の受け取りサイトにアクセスして金額、事業会社のID、予約番号(あるいは受付番号)、そして初泊の都道府県を入力しなければならない。事業会社がサイトのリンク先と入力情報を事前にメールで送ってくれれば分かりやすいのだが、対応は事業会社によってまちまちである。

 これに対し、アナログ処理はチェックインの時に地域共通の紙クーポンが渡され、宿泊料の支払い時に35%の割引が適用されるという、極めて分かりやすい仕組みである。ただしクーポンを使える店舗は公式サイトの取扱店舗マップから探すことになる。探しにくいし、行きたい店が事業に参加しているとは限らない。紙クーポンしか扱わない店舗も多く、意外にもデパートは紙クーポンしか使えなかった。

 Go Toイートはどうか。こちらはデジタル処理しかなく、予約サイトによって付与されるポイントの種類が異なる。同じ予約サイトで次回以降の予約の際に使うことになり、地域共通クーポンのように共通化されていない。こうした体験からGo To事業のデジタルプロセスは、情報弱者と言われるような人にとって決してやさしい仕組みではないと思う。

●Next:Go Toから学べること──制度設計はシステム構築の根源

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