[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

日本との差は歴然、ドイツIT業界の平均年収、高給のIT職種は?:第22回

2021年3月26日(金)麻生川 静男

ドイツの人材ビジネス会社StepStoneが、ドイツ人25万人を対象に2020年時点での給与調査を実施し、その結果を発表した。業種別や職業別だけでなく、学歴、勤務年数、企業規模、部下の人数など、非常に多くの項目について詳細な分析結果を公表した。全体的には、日本の1.7倍もの給与を得ている。またITも含めエンジニアの給与はかなり高い。

 独StepStoneがドイツ人の給与実態レポート「StepStone Gehaltsreport 2021」(画面1、PDFファイル)を公表した。調査は、2019年1月から2020年9月にかけて行われた。調査対象は約25万人ときわめて大規模な調査で、業種、業態、企業規模、年齢、男女、地域など詳細に分析されている。

 今回はそこから見えてくる、ドイツの給与所得の実態について見ていく。ここで言う給与所得とは、フルタイムで働いている人が年間に得る給与、ボーナス、残業代、各種手当など、すべてを合わせた税引き前のユーロ額である。概況を見た後に、本誌の読者が関心を持っているであろうIT業界の給与に関して考察してみたい。

画面1:独StepStoneがドイツ人の給与実態レポート「StepStone Gehaltsreport 2021」。PDFファイルとしてダウンロードして参照できる

ドイツ人の年収平均は5万7000ユーロ、世界11位

 調査結果によると、回答者全体の年間給与所得の平均値は5万6985ユーロで、中央値は5万ユーロとなっている。ざっくり1ユーロを130円として計算すると、5万7000ユーロは約741万円になる。

 一方、2020年9月に公表された国税庁の民間給与実態調査によると、日本人の2020年の平均年収は約436万円。比較すると、ドイツは実に日本の1.7倍の給与を得ている。2019年のOECD加盟国世界平均年収ランキング(注1)で見ると、ドイツは11位、日本は24位と低い水準にある。

注1:iBankマーケティング mymo「外国人の給料事情、世界の平均年収ランキング!世界一はどこで日本は何位?」より

 まず、この調査の回答者の所属業界から算出した、業界別の平均年収トップ10を見ておこう。制約、化学・石油、自動車という、ドイツが世界に誇る3業界が上位に並んでいる。トップの製薬業界は6万9682ユーロ(約900万円)だ。それらに比べると、IT・インターネット業界は6万2051ユーロ(約800万円)と低いが、日本の基準で見れば十分高給だと言える。

業界別平均年収トップ10

※単位:ユーロ(以下同)
製薬         69,682
化学・石油      68,798
自動車        67,735
金属         64,529
電気、精密機械、光学 64,100
航空・宇宙      63,726
消費財        62,304
IT・インターネット  62,051
機械・プラント    61,710
印刷・紙・包装    61,608

 年代別平均年収、勤務年数別平均年収を見てみる。日本は年功序列社会と言われるが、ドイツでも年代に比例して給与は上昇する傾向が強い。以下にあるように、ピークは51才から55才の間で、6万6857ユーロ(約860万円)だ。

年代別平均年収

25才まで   35,758
26~30才  44,453
31~35才  52,973
36~40才  59,551
41~45才  63,481
46~50才  65,971
51~55才  66,857
56~60才  65,245
61~65才  66,438

勤務年数別平均年収

勤続25年以上  67,480
勤続11~25年  66,686
勤続6~10年   56,229
勤続3~5年   48,058
勤続1~2年   41,518
勤続1年未満   38,932

 ちなみに、給与の男女格差はどうかというと、ドイツでも差は大きく、調査ではドイツ人男性の平均値は6万549ユーロ(約780万円)であるのに対し、女性の平均値は4万9074ユーロ(約630万円)。率にして20%の差がある。

 また、ドイツ国内の地域格差も大きい。給与が高いのはドイツ南部の州で、低いのは旧東ドイツ地域(新連邦州)だ。トップ3の州はヘッセン州、バーデン=ヴュルテンベルク州、バイエルン州。ワースト3の州はブランデンブルク州、メクレンブルク=フォアポンメルン州、ザクセン=アンハルト州。都市で見るとトップ5はフランクフルト・アム・マイン、シュトゥットガルト、ミュンヘン、デュセッルドルフ、ボンの順番だ。旧東ドイツ地域からはベルリンも含め下位にあり、州の差を如実に反映している。

 あと、学歴はドイツでも給与に大きく影響しているようだ。特に、博士号を持つと持たないとでは大きな差を生む。また、学位の中でも、ドイツ国内の大学卒業生の方が、海外の大学を卒業した者よりも給与が高いという。国際的な大学のランキングではドイツの大学は米国の大学に比べてかなり低いのだが、ドイツ人はそのような海外の評価はまったく問題にしていない、ということが分かる。

学歴別平均給与

博士号        83,668
海外修士号      61,906
海外学士号      54,210
ドイツ国内大学卒   78,687
ドイツ国内専門学校卒 77,696

 回答者の職種ごとの平均給与を見ていく。医師が最高で8万9539ユーロ(約1155万円)と1000万円超えである。続いて、金融スペシャリスト(7万3847ユーロ)、弁護士(6万8642ユーロ)、経営コンサルタント(6万4173ユーロ)となっている。

職種別平均給与所得

医師         89,539
金融スペシャリスト  73,847
弁護士        68,642
経営コンサルタント  64,173
銀行         62,744
技術者        62,564
IT業界        60,563
マーケティング・広告 60,174
製造業        60,046
販売・流通      59,691
人事         58,029
建設・建築      57,270
調査・研究      56,399
物流         50,358
デザイン       48,574
医療従事者      45,724
出版・メディア    45,121
卸売業・小売業    45,067
工芸技術職人     44,710
一般事務       43,788

 気になるIT業界は6万563ユーロ(約780万円)、とかなり高いレベルにある。読者にとって関心があるところなので、次のページで詳しく見ていく。

●Next:ドイツのIT業界の給与は?

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