ユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場スタートアップ)と言えば、すぐさま米国と中国が連想される。日本は言うまでもなく、ドイツもあまり注目されない。しかし、最近ドイツでもユニコーンが続々と登場し、“デカコーン”(評価額100億ドル以上の未上場スタートアップ企業)まで出現している。今回は、ドイツで注目されるユニコーン15社の躍進ぶりを紹介しよう。
以前、ドイツではユニコーン企業があまり現れなかった。理由としては、本連載の以前の回(関連記事:ドイツで有望なAIスタートアップが次々出現、ただし根源的な課題も)でも述べたように、ドイツのIT企業は「ユニコーンレベルの大企業を目指さない風土」があることが挙げられる。
ところが、冒頭で述べたように、近年、そのような状況に変化が訪れている。今回は、ドイツで有望視されているユニコーン企業を紹介したい。
ユニコーンを超えて“デカコーン”も出現
ドイツのWebメディア、Tagesspiegelが2021年4月に、市場調査会社のCB Insightsの調査に基づいて、ドイツのユニコーン10数社を紹介している。同メディアは特に、驚異的なスピードで“デカコーン”の仲間入りしたベルリンのオンデマンド食料品配達サービス会社、Gorillasというスタートアップに注目している。
Gorillasは創業からわずか9カ月で2億4500万ユーロ(約315億5000万円)もの資金を調達したユニコーンの代表格だ。これはドイツのスタートアップの中で最速である。投資家の中には、中国ハイテク企業のテンセントもいる。そのGorillasのビジネスと言えば、スーパーで販売しているような食料品や日用品を注文から10分以内に、配達費1.8ユーロ(約230円)で届けるというものだ(画面1)。
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特筆すべきは、在庫を抱える倉庫の近辺の地域だけを対象にオンデマンド配達サービスを提供したこと。Gorillasは当初、創業地のベルリンでサービスを開始し、今では同市内13カ所にサービス拠点を置き、それ以外にケルン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ハンブルク、ミュンヘン、シュトゥットガルトでもサービスを開始している。さらには、ドイツ以外に、オランダの5都市と英国ロンドンにもサービスを展開している。
一方、Tagesspiegelが記事で紹介したユニコーン企業は下記の14社で、順序は2021年4月時点での企業価値の評価額順である。この中にはすでに上場してユニコーンから外れた企業や、現今のコロナ禍で業績が急激に悪化した企業も含まれる。以下で、各社を紹介するが、評価額については触れず、ビジネスのやり方のどのような点が評価されたかについて焦点を当てる。
1. Otto Bock Healthcare
2. N26
3. Celonis
4. Flixbus
5. Mambu
6. ATAI Life Sciences
7. Personio
8. Wefox Group
9. Deposit Solutions
10. GetYourGuide
11. ABOUT YOU
12. Omio
13. Lilium Aviation
14. Sennder
ドイツの注目ユニコーン企業14社の業容
1. Otto Bock Healthcare
ゲッティンゲン近郊のデューダーシュタットに本拠を置く、1919年創業の義手・義足・義歯・義眼などの人工装具メーカー。ユニコーンは創業から数年以内のスタートアップを指すのが一般だが、Otto Bock Healthcareは創業が1919年と優に100年超の歴史を持つ。1999年には日本法人オットーボック・ジャパンを設立している(画面2)。同社がユニコーンとみなされるのは、2017年以来、スウェーデンのベンチャーキャピタル会社のEQTが投資資金の20%を占めていることによる。
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2. N26
ベルリンに本拠を置く、2013年創業のモバイルバンキングサービス会社。スマートフォンだけで銀行口座の開設から預金、キャッシュレス決済、さらには海外送金や保険商品購入まで、幅広い金融関連サービスが受けられる(写真1)。
自身はスマートフォンのUI設計・開発に特化し、バックオフィス機能や実際のサービス内容自体は提携企業が提供する。N26は、いわばワンストップで金融サービスを提供するハブとして機能する。2013年のサービス開始当初は、サービスエリアをドイツとオーストリアのドイツ語圏であったが、UIの多言語化を達成して、現在はEU各国および米国にビジネスを展開している。
●Next:製造、医療、物流、観光、HRTech……ドイツの注目ユニコーン企業を一挙紹介
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