[ユーザー事例]

ANAが挑むデジタル人材育成、ユニークな手法の狙いは?

2022年1月5日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

デジタルトランスフォーメーション(DX)をリードする人材をどう確保するかは、多くの企業や組織にとって大きな悩みであり、同時に極めて高い壁である。外部の即戦力人材をキャリア採用するのは簡単ではない。優秀人材は引く手あまただからだ。一方で社内人材を職種転換・育成するのも、ノウハウがないので難しい。そんな中、参考になるのが全日本空輸(ANA) デジタル変革室 イノベーション推進部の取り組みだ。“ファーム”や“道場”と呼ぶユニークな社内人材育成プログラムを実践し、すでに成果が現れている。

 デジタライゼーション、その先にあるデジタルトランスフォーメーション(DX)を迫られる中、どんな企業にとっても高いハードルになるのがデジタル人材の確保や育成だろう。めぼしい人材は払底しているから、外部人材をキャリア採用するのは簡単ではない。「AIやクラウドについて一定のスキルを持ち、指示をこなせる技術者は採用できても、ビジネス変革ができる人材となると難しい」(IT専門人材のコンサルタント)。

 となれば、社内で育成する必要があるが、それも茨の道だ。大半の企業は育成の方法も育成した経験も持っていないし、そもそも育成する人も育成の場もないのが通例である。そんな中、ANA(全日本空輸)がデジタル人材の育成に取り組んでいるという。同社デジタル変革室 イノベーション推進部部長の野村泰一氏(写真1)に話を聞きに行ってきた。

写真1:2021年3月にJDMCが開催した「データマネジメント2021」での講演から。野村氏は、自らの取り組みをさまざまなイベントでも積極的に情報公開している
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マインドセットの変革やシステム環境整備を先行

 本題に入る前に、関連する事柄を整理しておこう。野村氏はここ数年、ANAのDXに向けてさまざまな施策をリードしてきた人物である(図1)。

 宮本武蔵の兵法書の名にちなんだ「五輪の書」はその1つで、マインドセット変革を促す行動指針である。「イノベーションを起こしやすい環境を自ら作ろう」「失敗を恐れず行動したことを誇りに感じよう」「熱い思いを持ち続けよう」などの5項目からなる宣言だ。個々の宣言はありがちなことだが、五輪の書と名づけることで記憶に残りやすくなる。

図1:ANAが実施してきた今までの施策と次の一手=人材育成(出典:全日本空輸)
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 「システムナレッジ(ハニカム)」は、IoTやRPA、AI、ブロックチェーン、生体認証といった利用可能なデジタル技術の相互関係を示した1枚の図である。ハチの巣のように六角柱を隙間なく連ね、例えばAIに隣接する技術にはRPAや画像認識があることを、常に意識できる効果がある。どちらも単純と言えばそのとおりだが、その分、分かりやすく、スタッフのマインドセットに好影響する。

 また、「ミツバチ」や「ダンゴムシ」といった、ユニークな名前を付けたワークショップ(WS:議論に基づくアイデア創出の場)を数多く実施している。前者はデータ収集とデータ提供、それらを活用したアイデア創出という、3ステップからなるデータ活用に向けたWS。データの収集や提供と表現すると堅い感じになるが、それぞれをミツバチの役割として親しみやすく、アイデアを出しやすくした。

 後者は隠れた課題を見いだすためのWSで、普段は落ち葉や石の下に隠れているが、それらをどかすと見つかるダンゴムシから命名した。仮に課題解決WSと呼ぶと、目につく分かりやすい課題に関心が行きがちだが、もう一歩深く、見過過ごしがちな課題や困りごとに関心を向けるところがミソだ。こうしたWSには一般社員やグランドスタッフ、CA、整備士などはもちろん、経営層も参加しており、経営層からミツバチやダンゴムシといったWS名が聞かれるようになったという。

 これらの取り組みと並行して、アイデアを実現しやすくするためのシステム環境を整備した。その1つが図にある「CX基盤」で、既存システムに散在する座席予約や空港の売店、機内販売など顧客接点に関わるデータを、仮想的に集約してマーケティングなどの施策を取りやすくするものだ(関連記事「企業データ基盤」はこう創る!─ANAの“顧客体験基盤”構築の要諦)。別に構築した「ストリーミングエンジン」と呼ぶツールを併用して、プログラミングなしに、アジャイルに、施策を実行に移せるようにした。

 ほかにも、パイロットやCA、整備士、空港スタッフなどの訓練施設である「ANA Blue Base」を使ったアイデアの概念実証(PoC)の仕組みを整備済みだ(関連記事ANAがDX推進で取り組む「5G×データ統合基盤」、そのシナジーとは?)。一方で本格的なデータ環境も整えつつある。これまでIT部門はデータウェアハウスの構築・運用に特化し、データ分析や活用は各事業部門に委ねていたのを、データカタログを整備したり、関連ツールのライセンスもIT部門が一括して管理するようにしたのだ。

 こうしたマインドセット変革に向けたシンプルで明解なメッセージや、親しみやすいのに加えて実践的なワークショップ、生まれたアイデアを素早く具体化するシステム環境の整備などの結果、ANAではすでにさまざまな現場発の改善や業務成果を生み出している。

 とはいえ、これでできるのは既存の顧客サービスで足りない何かを埋めたり、業務課題を解決するところまで。より大がかりな業務変革やサービス開発、その先にあるデジタルトランスフォーメーションには、デジタルに秀でた人材の確保が欠かせない。すなわち、図1の赤枠の取り組みである。

新任管理職をプロ野球に範をとって育成する「ファーム」

 幸か不幸か、コロナ禍の直撃を受けたANAは人材採用を絞りこんでおり、社内で育成するしかない。そこで開始したのが2つのデジタル人材の育成プログラム「ファーム(Farm)」と「道場」である。どういうプログラムなのか?

●Next:「ファーム」や「道場」でデジタル人材をどう育成しているのか?

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