[ザ・プロジェクト]
「企業データ基盤」はこう創る!─ANAの“顧客体験基盤”構築の要諦
2019年1月23日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)
「心臓部にはデータとアナリティクスのプラットフォームが存在する」──これは米ガートナーのアナリストに「デジタルビジネス時代の企業情報システムは、どんなアーキテクチャであるべきか?」と聞いたときの回答である。IoTもAIも中核にはデータが存在するので当然だろう。では、“データとアナリティックスのプラットフォーム”はどのように実装されるのか。全日本空輸(ANA)が稼働させた「CE基盤」は、その有力な答の1つになり得るものだ。
さまざまな情報システムに散在するデータを集約して、他のシステムや人からアクセス可能にし、活用できるようにする──。“データ駆動経営”といった言葉を持ち出すまでもなく、これはどんな企業にとっても重要な課題だろう。米ガートナー(Gartner)が提唱するデジタルビジネスプラットフォーム(図1)からも、そのことは明らかだ。すべてのシステムの交接点に「データとアナリティックス」のプラットフォームがある(べき)と指摘するものだ(関連記事:データ駆動経営に必要なアナリティクス・プラットフォームの姿とは?)。
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では、デジタルビジネスプラットフォームは、どんなふうに実装されるのだろうか。すべてのシステムのデータベースを1つに統合するのは現実的に困難だ。となると、データウェアハウス(DWH)が候補の筆頭になるが、データの複製が必要なのでリアルタイムのデータ統合には向かない問題がある。Apache Hadoopで構築するようなビッグデータ基盤も同じである。
一方、例えば「Red Hat JBoss Data Virtualization」や「Informatica Intelligent Cloud Services」といったソフトウェア/サービスを使って仮想的にデータを統合し、必要なときに最新のデータをリアルタイムで取得するプラットフォームはあり得るだろう。となれば「ASTERIA Warp」や「DataSpider」などのEAIツールも有効かもしれないが、いずれにせよこれぞという事例はまだ見つからない──。
そんなふうに思っていたとき、全日本空輸(ANA)がさまざまな旅客システムや運行管理システムなどの既存システムにあるデータを仮想的に収集・統合する「システム基盤」を開発し、すでに運用中であると聞き、取材に行ってきた。同社が付けた名称は「Customer Experience(CE)基盤」。名のとおり、顧客体験価値の向上やサービスの強化、現場スタッフのサポートなどを志向したものだ。
結論から言えば、ANAのCE基盤はガートナーの図1に近いものに思えた。そのアーキテクチャの詳細については後で触れるとして、まず、ANAがなぜCE基盤を作ったのか、背景から確認してみよう。そのほうがCE基盤の意義を把握しやすいからだ。
顧客体験価値を高めるためにデータ統合は必須
まず、図2を見ていただきたい。ANAが作成した13シーンから成る顧客体験のストーリーであり、一般にカスタマージャーニー(Customer Journey)マップと呼ばれるものの一部である。予約サイトやコールセンターへのアクセス、空港カウンター、登場待ち、機内や乗り換え、目的地到着などのシーンがあり、それぞれで顧客は何かを体験する。一連のシーン、あるいはいくつかのシーンにおいて顧客の体験価値を高めたりOne to Oneマーケティングを実践したりするのが、ANAにとって重要な経営課題の1つであることを意味している(画面1)。
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当然、簡単にはいかない。顧客情報1つとっても、マイレージ会員の情報は一元化しているにせよ、そうでない顧客の情報は断片的にしか存在せず、永続的に管理する仕組みもない。「顧客のうちマイレージ会員の割合は4割程度。残り6割については旅客系(国内・国際線予約)システムに情報がバラバラに存在する状態でした」と、同社業務プロセス改革室イノベーション推進部長の野村泰一氏は説明する。
●次ページ:CE基盤プロジェクトで突き当たった課題と解決手法
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