[架け橋 by CIO Lounge]

テクノロジーを愛して、チャレンジを!

CIO Lounge 喜多羅滋夫氏

2023年2月22日(水)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge正会員メンバーの喜多羅滋夫氏からのメッセージである。

 皆さん、こんにちは! CIO Loungeの喜多羅と申します。私は20年余りグローバル企業で情報システムの仕事に従事した後、8年間、日本企業でCIOを務めました。現在は個人の立場から、一般企業のIT活用やDX推進を支援する仕事をしています。

 今、ITの世界には、かつてなかったほど大きなイノベーションの波が訪れています。少し前はブロックチェーンや仮装通貨、今はメタバースやWeb3、例えばNFT(代替不可能なトークン)やDAO(分散型自律組織)、そして生成AI(Generative AI)などでしょうか。このようなイノベーションに対して否定的にならず、むしろきちんとアンテナを張って全体感をもって理解し、その本質を考察して企業経営への転用を考える。こうした姿勢がCIOに求められるスキルであると考えています。

 そんなわけで私は、2023年1月に米国ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー/イノベーションの展示会「CES2023」に参加してきました。コロナ禍により、海外に出かけるのはちょうど3年ぶり。スマホにワクチン接種アプリを再インストールしたり、米国への入国手続きの確認をしたり、まるで初めて海外へ出たときのような新鮮な感覚でした。

 日本ではソニーグループとホンダのEV合弁会社であるソニー・ホンダモビリティが発表した新型EVのプロトタイプ「AFEELA(アフィーラ)」(写真1)が大きく報道されましたが、もちろんそれだけではありません。メタバースに関する最先端技術はもとより、生活上のさまざまな課題に対処するための出展も数多くありました。高齢者が聞きやすいスピーカー、パーキンソン病の患者さんのためのメークアップツール、腸の音を体外からリアルタイムで拾うセンサー、などです。大企業だけでなく、数多くの国々のスタートアップが自慢の新製品や新しい技術を披露する、大変、刺激的な場でした。

写真1:CES 2023でベールを脱いだ「AFEELA」(出典:ソニー・ホンダモビリティ)

 展示会場の外側でも、さまざまなサービスのDX化を体験できました。ホテルのアプリは「アーリーチェックインしませんか?」「よかったらこちらのレストランを予約しますが?」と、どんどん提案をしてきます。決済は、ほぼすべてキャッシュレス。持参した米ドルで使ったのはチップの合計10ドルと、カジノでスった100ドル紙幣1枚だけでした。テクノロジーの進化は引き続き、生活を大きく変貌させ続けています。

 こういった新しいテクノロジー/イノベーションはB2Cが中心。企業の情報システムには、すぐには影響を与えないかもしれません。しかしながらコンシューマー向けのテクノロジーを企業に取り込んで生産性をあげる取り組みは、過去にも色々ありましたし、今後も各所でみられるでしょう。

 2005年に日本でi-modeが隆盛を誇っていた頃の話です。日本の携帯電話を欧州のオフィスに持ち込むと、ほとんどの同僚はこう言いました。「喜多羅さん、そんなニッチなニーズがあるのは日本だけだ。我々ばSMS(ショートメール、Cメール)が送れたらそれで満足しているんだから。コミュニケーションはPCとメールでやればいいんだよ」。その2年後に世の中にiPhoneが登場し、今では企業の業務改善や生産性向上はスマホ抜きには語れない状況です。

 このようなイノベーションと、どう向き合うとよいのでしょうか? 筆者はやはり、組織のリーダーがまず率先して、新しい領域に日々接しているスタートアップ企業や若い技術者たちと対話するのが近道だと考えています。CESなどへの参加もそうですが、いい手段の1つがあちこちで適宜開催される、ミートアップなどと呼ばれる勉強会です。

 実際にこの種の会に出席して話を聞いているとまったく理解ができず、1人だけ異世界に来たような感覚になることがよくあります。グループディスカッションにもほとんど貢献できず、恥ずかしく、いたたまれない感覚が湧いてきたりもしますが、私はそんな気持ちを素直に受け止めるようにしています。そして「あー、経営層や事業責任者の人たちも日々新聞に掲載されるWeb3などの記事を読みながら、こういう感覚になっているんだろうなぁ」と、勝手に想像しています。

 一方で自分が蓄積した経験が、新しいテクノロジーを理解する助けになっているのを実感することも多いです。あきらめずにコツコツと継続していけば、やがて視界がパッと広がる──そんな瞬間がやってくるのは、この仕事の醍醐味かも知れません。

 結局のところ、ITを生業とする以上、幸か不幸かお勉強は一生続きます(笑)。経営に関する視点を持ちながら、テクノロジーの進歩を追いかけて、その2つの間に継続的に橋を架けていく。そのためにも新たなイノベーションに向き合って自分を常にアップデートしながら、目をキラキラさせていられるか。これからもテクノロジーを愛して、チャレンジしていきたいと思います。


●筆者プロフィール

喜多羅滋夫(きたら しげお)
P&Gとフィリップモリスの情報システム部門で20年あまり、主にマーケティングや営業部門の情報活用支援に従事する。2013年より8年間、日清食品ホールディングスにてCIOとして組織のグローバル化、基幹システム更新、IT部門改革、働き方改革などに取り組む。2021年に独立し、株式会社ラック、ダイドーグループなどのIT戦略やDX推進を支援する。趣味はランニングと食べ歩き。ライフワークは、サロマ湖100キロマラソンを10回完走し、ゴール地点に自分の足型を残すこと(あと2回!)。

※当コラムはCIO LoungeのWebサイトにも同時に掲載しています。


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「急速に変化・進展しているIoTやAIなどの先端ICTをいかに経営に取り込み、企業活動を伸長させるか?」──NPO法人CIO Loungeは、大手企業でCIO/IT部門責任者としてこれらの課題に先進的に対応してきたメンバーが集うコミュニティである。各人の経験・知見をもって、現役の経営層/CIO/IT部門責任者の相談/討論の相手となり、解決への糸口を探る。各企業へのコンサルティング/各種セミナー開催・次世代CIO育成等さまざまな活動を通じて、デジタル社会の発展や最新ICT活用の普及に貢献することである。

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