[木内里美の是正勧告]

ChatGPTを使ってみて、改めて考える“仕事”と“労働”の違い

2023年2月28日(火)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

仕事と労働。WorkとLabor。普段はその違いなど意識しないで言葉を使っているに違いない。辞書を引けばそれぞれに解説されているが、違いは分かりにくい。しかし筆者はいつも仕事と労働の違いを意識しながら活動をしている。仕事はしたいけれど、労働はしたくないが本音である。話題の「ChatGPT」を使っていて、仕事と労働の違いについて改めて考えを巡らせていた。

 そもそも働く意義は何だろう? 人によって見解は異なるはずだが、高校生向けのNHK講座では「働くことの意義には3つの側面がある」と教える。経済性、社会性、個人性である。経済性は言うまでもなく生活のためのお金を稼ぐこと、社会性は社会の存続と発展のために貢献すること、そして個人性は自己実現のためである。高校講座では仕事と労働の違いは教えていない。押し並べて働くことを労働としている。

仕事と労働の違いは大きい

 法律にも「労働法」はあるが、「仕事法」はない。労働者とは言うが仕事者とは言わない。仕事人という言葉は、ある特定の能力に長けていてパフォーマンスの高い人に使われる。突き詰めていくと、仕事と労働の違いが鮮明になってこないだろうか?

●言われてやるのは労働、自らやるのが仕事
●労働は辛い、できればやりたくない。仕事は総じて楽しい
●労働はできるだけ早く済ませて帰りたい、仕事はエンドレスでも働ける
●労働は精神的に病むことがあるが、仕事で病むことはありえない

 NHK講座の3つの側面に当てはめれば、労働は経済性に重きが置かれ、仕事は社会性や自己実現に重きが置かれるのだ。日々の活動のなかで、実はこの違いはとても大きい──と筆者は考えている。

仕事と労働の違いはとても大きく、心身の健康にもかかわってくる(写真:Getty Images)

楽しさと生産性につながるのは仕事

 筆者は組織に属して働いていた現役バリバリの頃、働くことがとても楽しかった。設計というクリエイティブな仕事やシステム再構築のエキサイティングな仕事に就いていたことも影響しているかもしれない。きついと思うことはあっても辛いと思ったことはない。

 月曜の朝を迎えるのが嫌だったことはなく、日曜の夜には月曜になるのが待ち遠しかった。仕事が楽しいから集中できる。集中するから生産性も上がるし、成果も出せる。予定工程よりも早く仕上がった時の爽快感は何とも言えない。

 こんな体験エピソードを思い出した。夕方、客先の工務部から「すぐに来てほしい」と電話が入った。なにやら困っている様子なのですぐに客先を訪ねると、明日の会議までに新しい工事計画の図面と概算見積もり資料がほしいという。かなり無茶な依頼だった。明らかに数人で分担して徹夜しなければ間に合わない仕事量である。

 それを請け負って、外出先からチームの仲間に電話をし、徹夜で仕事をしてもらえそうな数人に残ってもらった。夕食後、仕事の分担の打ち合わせをして、各人が黙々と仕上げる。気がつけばビルの窓から射し込む朝日が眩しい。8時には要求を受けた資料は完成した。内容を再確認し、仲間には感謝を伝えて帰宅を促し、客先に届ける。工務部の担当者は大いに喜び、それだけで徹夜仕事をした満足感があった。

 これが労働だったら疲労困憊しただろうが、仕事で徹夜しても疲労感がない。後日その案件は工事として発注され、受注できた。その事案以来、営業を通さずに新しい案件を頂けるようになった。逆に営業部に連絡していくつもの工事案件を受注できた。客先との良い関係が仕事から生まれたことになる。

 ところが管理職になると、仕事だけではなく労働が入ってくる。どうでもよいジョブにしか思えないが、ルールだからやらなくてはいけない。どうでもよい周知だけの会議も増える。細々としたルーティンは性に合わないから苦痛にも感じる。でも役割だからやらねばならない。労働を2~3割抱えながら、プレイングマネジャーとして仕事をしていた頃が最も充実感を味わっていたように思う。

主体性の有無によって変わる仕事と労働

 仕事と労働の違いは主体性にある。自分で計画し、自分で考え、チームや組織を動かしながら行動する仕事には、やり甲斐を感じる。それは仕事だからであって、労働ではそうはならない。仕事のよいところは、やらされ感がないことだ。だれかに指示されて働くわけではない。自分の意志で働くから、情熱を注ぐことができる。情熱を注げる仕事は楽しい。どんなにタフな仕事でも耐えられるし、常にチャレンジができる。

 そこまでではなくても、労働の一部を仕事に変えていくこともできる。工夫次第で労働が仕事になる。例えば、効率を求めてやり方を変えたり工夫したりする。ツールを使ってルーティンを自動化する。そうした活動はまさに仕事だ。

 18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命以降の機械化によって、多くの人々は重労働から解放された。肉体労働の多くが機械によって代替されてきた。機械化は常に発展し続け、今では自動化に向かっている。かつては工場で機械を使いながら黙々とルーティンワークをこなしていた工員の姿が、工場から消えた製造業も出てきている。24時間、ロボットが製造を担い、かつての工員はロボットにデータを送るクリエイティブなプログラミングという仕事をしている。

 職人は労働をしているのか、仕事をしているのか? 労働をしている一般の職人は少なくないが、高度な仕事をしている一流の職人もいる。彼らは仕事人とも呼ばれ、常に研鑽しより高度な技術を求めて、その情熱は尽きることがない。

●Next:ChatGPTを使って、改めて考える“仕事”と“労働”の違い

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ChatGPTを使ってみて、改めて考える“仕事”と“労働”の違い仕事と労働。WorkとLabor。普段はその違いなど意識しないで言葉を使っているに違いない。辞書を引けばそれぞれに解説されているが、違いは分かりにくい。しかし筆者はいつも仕事と労働の違いを意識しながら活動をしている。仕事はしたいけれど、労働はしたくないが本音である。話題の「ChatGPT」を使っていて、仕事と労働の違いについて改めて考えを巡らせていた。

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