ベネッセホールディングス(本社:岡山県岡山市)が、顧客が今、何を求めているかに照らして、サービス/ビジネスモデルを迅速に変革できる組織を目指し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。2023年5月17日・18日に開催された「CIO Japan Summit 2023」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド)に、同社 専務執行役員CDXOの橋本英知氏が登壇。顧客ファーストで推し進めるDXの取り組みの詳細を公にした。
高まる一方の事業部門のニーズにうまく応えられない
ベネッセコーポレーションを中核に、教育、介護、保育、語学、生活など幅広い領域で事業を営むベネッセホールディングス。同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みは2018年、グループ内に推進組織を立ち上げたことから始まる。「当時は通信教育部門の業務でデジタルを取り入れていたものの、他社のDXに後れを取っている状況だった」と、ベネッセホールディングス 専務執行役員でCDXO(Chief Digital Transformation Officer)の橋本英知氏(写真1)は振り返る。
1年目、同社は外部人材も登用してデジタル人材戦略を打ち立て、デジタル開発体制の強化や、デジタルネイティブなオフィスの環境整備など、ロードマップに沿って順番に取り組んだものの、すぐには思うような成果が出なかった。2年目は、前年度よりもテーマを絞り込んで臨んだが、あらゆる局面でのデジタル化が一気に進む中で、事業部門のニーズとDX推進部門の活動のギャップが広がってしまうという課題に直面したという(図1)。
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「2020年に入り、新型コロナウイルスの影響もあって、この頃から本格的に事業のデジタル化に取り組まねばならないという雰囲気が社内に漂い始めた」と橋本氏。3年目となるこの年、橋本氏が舵取り役となってベネッセのDXはリスタートした。
「顧客にとって最良のサービスを提供していくためにスピード感をもって組織への変革が必要だった」として、橋本氏は、DX推進にあたって当時のビジネス状況と課題を次のように洗い出した。
●教育・介護・生活など事業領域・ビジネスモデルが多岐にわたり、各事業部門のデジタル活用状況や事業フェーズが異なる。
●既存システムのEOL対応や長期使用してきた古く重厚なアーキテクチャが存在する。これまでのシステム開発・投資が抱えてきた課題もあり、柔軟性が低い。
●新たなデジタルテクノロジーの登場により、ベネッセHDの事業領域で新しい商品・サービスが生まれて既存の商品・サービスの価値が変化する“デジタルディスラプション(創造的破壊)”が進行している。多様な事業領域・ビジネスモデルは、デジタルを駆使する競合企業(ディスラプター)の激しい動きに影響を受けやすい。
これらに対して同社は、「事業フェーズに合わせたDX推進」「組織のDX能力向上」の2軸で変革に着手した(図2)。また、DXの着実な推進を目指して、2021年4月には「Digital Innovation Partners(DIP)」という組織を立ち上げた。デジタル、IT、人事、DX推進のためのコンサルティング部門などを統合したグループ横断型の同組織で、戦略の立案から資源・投資配分、具体的施策の推進などを実施していった。
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現場の課題からデジタル化のフェーズを定める
「事業フェーズに合わせたDX推進」は、全社一律でDXに取り組むのではなく、事業領域・部門ごとに抱えている課題解決を目指す取り組みだ。
各事業部門におけるデジタル化のフェーズとして、「デジタルシフト」「インテグレーション」「ディスラプション」の3つを定め、市場や競合環境などを踏まえながら、各事業部門のサービスや業務プロセスの段階的なデジタル化や品質・生産性向上のプロジェクトにあたる(図3)。また、DIPから社内コンサルタントを事業部門に派遣し、各部門のプロジェクトが軌道に乗るまで伴走する体制を敷いている。
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ディスラプションに対処するフェーズでは、環境変化・自社の強みを客観的に観察する「ディスラプションウォッチ」を取り入れた(図4)。これは、6つの事業領域でカオスマップを作成し、グローバルで競合となる企業(プレーヤー)やサービスの動向を追うためのものだ。その活用で市場変化の兆しに対して早急に対策を打つほか、プレーヤーが小規模な段階から関係を構築することで将来的に共創・協業・連携することも視野に入れているという。2021年度は、ベネッセにとってディスラプターになりうる約1900のプレーヤーを世界中から抽出して定期的にウォッチし、事業部門と情報共有・検討を行っている。
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●Next:各デジタル化フェーズにおける成果事例、「組織のDX能力向上」軸における取り組み
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