[架け橋 by CIO Lounge]

大学の経営統合から展望するイノベーションのあり方

CIO Lounge 峯尾啓司氏

2023年7月10日(月)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge正会員メンバーの峯尾啓司氏からのメッセージである。

 先日、母校である東京工業大学の同窓会に出席し、私の2年先輩である益一哉学長と話す機会がありました。東工大は現在、東京医科歯科大学との統合を進めています。よく大学の統合は少子化に伴う学生数減少への対応と言われますが、益学長はそれ以上に、「日本の失われた30年への反省が込められている」と仰っていました。

 どういうことでしょうか? 益学長は電子工学系の出身で専門は半導体です。日本の半導体産業に長年関わる中で、「日本は技術でまさっていた。しかし事業で負けた」。半導体産業に限りませんが、「事業で勝つ戦略を政府、企業が推し進めていれば、日本の失われた30年はなかったのではないか」という反省から大学改革を進めているとのことです。

 学長の問題意識は、技術至上主義で経営マインドが弱い人材を輩出した大学には責任があるというものです。そして大学の存在意義は何か、社会のイノベーションを創出するために何をすべきかを考え、技術に加えてビジネスを理解した人材を輩出し、社会や企業と連携してイノベーションをリードするのが大学のあるべき役割としたわけです。

 そのため統合の形式として、他の多くの大学が採用する「1法人複数大学」ではなく、東工大と医科歯科大は「1法人1大学」を選択しました。規模の拡大ではなく、より大きなシナジー効果を創出するために1つの大学にし、並行して人材輩出の在り方を見直したいとの思いからだそうです。

 益学長と話ながら、私は長く勤務したブリヂストンによるM&Aを想起しました。1988年、自社よりも規模の大きい米ファイアストン(Firestone)を買収したのです。買収後、経営を揺るがすほどの赤字とリコールを経験し、企業カルチャー統合の苦難にも見舞われました。異なるものを取り入れ、そこから何が生まれるのか当時はまったく見えませんでしたが、それが今日の世界のブリヂストンを支えていると言っても過言ではありません。トップが高い問題意識を持って大きな決断をすること、そしてイノベーションの重要性を今さらながらに実感しています。

 残念なことに、こういった例は多数派ではないように思えます。中学の同級生で米国会計法人の上級役員になった友人は「1990年代から2000年代、訪米した日本の官僚や大企業の幹部と会話する機会があった。米国で起きていることを話すと、『米国は凄いですね』などというだけで、自分事として捉えようとしなかった」。失われた30年はそこにあると考えています。

 私自身も同様のことを痛感した経験があります。北米に7年勤務していた間や、2015年頃にシリコンバレーのさまざまなベンチャー企業を訪問しましたが、そこに中国人や韓国人はいても日本人はほとんどいなかったのです。個人のマインドセットの面で、失われた30年が続いていることを痛感しました。イノベーションを担う人材やベンチャー企業をもっと創出する。それが日本にはまだ不足していると思います。

イノベーション、そしてDXの進め方

 イノベーションとは、それまでのモノ・仕組みなどに対してまったく新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすこととされます(注1)。「経営や業務にデジタルを融合させ、新たな価値を生み出すイノベーション」がデジタルトランスフォーメーション(DX)と私は捉えています。縁があってITの世界に飛び込み、現在もITの業務に携わる中で、今まさにDXに立ち向かっています。

注1:ウィキペディア日本語版の「イノベーション」項より。参考文献『大学イノベーション創出論─東工大発・未来社会DESIGNの挑戦』(益一哉著、日経BPコンサルティング刊、2020年)

●Next:生産技術はDXに通じる

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