[架け橋 by CIO Lounge]

一般企業こそIT/デジタル人材の育成を急ごう!

日立造船 常務執行役員 ICT推進本部長 橋爪宗信氏

2023年11月30日(木)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、日立造船 常務執行役員 ICT推進本部長でCIO Lounge正会員メンバーの橋爪宗信氏からのメッセージである。

 私は2018年、長年勤務したNTTデータから日立造船にIT・デジタル担当として転職しました。今回はその経験から得た想いについて書きます。「IT企業と一般企業の関係を再構築する」「一般企業こそIT/デジタル人材の育成を急ぐ」の2点が骨子です。

 日立造船は英国人のエドワード・ハズレット・ハンター(E.H.Hunter)が1881年に大阪・安治川で創設した大阪鉄工所(Osaka Iron Works)が始まりの会社で、主に造船事業を手がけました。戦前戦後の13年間日立製作所グループに属し、以来、この社名になっています。しかし現在は日立製作所と資本関係はなく、主力事業も、ごみ焼却発電設備や橋梁、シールド掘進機など、大きくて重いものが主力。プラント建設工事を請け負うエンジニアリング事業も長年手がけています(写真1)。

写真1:現在ドバイで建設中の、世界最大級ごみ焼却発電プラント(出典:日立造船)

 いずれもかつての造船で培った技術ゆえですが、2002年には造船事業を分離し、今や造船とは無縁です。最近では全個体電池や培養肉製造装置といった新たな領域にも挑戦しています。そんな中、ようやく2024年10月に社名を「カナデビア(Kanadevia)」に変更することが決定、何回目かの創業期を迎えます。

IT部門とIT子会社の関係はどうあるべきか

 ここから本題です。日立造船には現在、IT子会社がありません。実は以前に「日立造船情報システム」という子会社があり、造船CADの開発や、新規事業を手がけていました。その1つ、旅行予約サイトの「旅の窓口」はご記憶の方もいるかもしれません。マイトリップ・ネットが運営していたこのサイトは2003年に楽天に事業買収され、現在は楽天トラベルになっています。

 そんなユニークなシステム子会社は2006年、NTTデータに100%譲渡され、NTTデータエンジニアリングシステムズに社名変更しました。日立造船における会計などの基幹システムは同社に委託するなど、最近までそれ以外も社内でシステム開発することは少ない状況が続いていたのです。

 私が日立造船に転職した2018年7月というタイミングは、基幹システムをOracle E-Business SuiteからSAP S/4HANAへ全面刷新をする最中でした。基幹システムを担当する予定ではなかったのですが、日立造船のシステム全体を勉強する中でこの更改プロジェクトが問題になっていることに気づき、立て直しを手伝うことにしました。

 といっても、基幹システムの刷新そのものではありません。それは外部のIT企業に委託しており、遅れはありましたが何とかなる状況でした。問題は当社IT部門でデータ移行を担うメンバーがかなり疲弊していることでした。「データ移行はお客様の役割」とIT企業から言われ、その企業のサポートがほとんどない中、データ移行プログラムの仕様で大きな機能落ちがあったのです。データ移行が更改プロジェクトのボトルネックになっていました。

 一般企業で基幹システムを更改するのは20年に一度くらいです。日立造船でも汎用機ベースのシステムからOracle EBSにオープン化した前回から相当の年数が経過しており、実務経験があるメンバーは皆無。IT企業に頼らざるをえないはずでしたが、前述のように「データ移行はお客様の役割」と言われ、四苦八苦していました。私はIT企業で多くのデータ移行に携わりましたので、データ移行のやり方を抜本的に変更し、移行プログラムの見直しや修正をサポートしました。

 そんな中でデータ移行の最終フェーズで見つかったのが万単位(!)に及ぶ移行対象のデータの誤りです。自ら修正するしかありませんでした。データ移行を仕事として何度か経験している者には簡単なことですが、量があまりに多く、人生最大の過重労働でした……。詳細は書きませんが、「お客様の役割」という理由でデータ移行という重要な仕事を発注者側に負わせた当時のIT企業のやり方は、私にはまったく理解できませんでした。

 そういうIT企業が多いことは最近よく聞きますが、IT企業の皆さんにはぜひ一般企業の状況を考慮して、プロジェクトを推進していただきたいです。一方で、「ITやデジタルに関することを今後もIT企業に依存し続けていいのか、それで私たちの未来は本当にありえるのか」ということも痛感しました。

●Next:一般企業とIT企業の新たな関係へ

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