[市場動向]

競争力を削ぐ「塩漬けの基幹システム」、モダナイゼーションが急務─日本オラクル

2024年8月2日(金)愛甲 峻(IT Leaders編集部)

日本オラクルは2024年7月9日、2025年会計年度(2024年6月~2025年5月)の事業戦略を発表した。同社 取締役 執行役 社長の三澤智光氏は今年度の重点施策として、前年度に引き続き「日本のためのクラウドを提供」「顧客のためのAIを推進」に取り組むと宣言。喫緊の課題であるレガシーモダナイゼーションの支援や、ソブリンクラウドやガバメントクラウドといったニーズの変化への対応、加熱するAI需要に応えるサービスの方向性などについて説明した。

重点施策は前年と同じ「時間をかけて根づかせる」

 米オラクル(Oracle)の2024年会計年度におけるグローバルでの通期売上高は、前年同期比6%増の530億米ドル(約8兆円)。併せて発表された980億米ドル(約15兆円)にのぼる受注残が評価され、決算発表後の時間外取引で株価が10%近く上昇したという。日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏(写真1)は、この受注残の大半がクラウド事業の売上であると述べ、その勢いを強調した。

写真1:日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏

 日本オラクルの2024年会計年度の売上高は2445億円であり、本国を上回る前年同期比7.8%増の成長を記録した。オラクルは日本市場に対して、今後10年間で80億ドル以上の投資を行うことを発表しており、「日本市場に対する期待が高まっている」(三澤氏)。

 クラウド事業について、SaaS市場には競合他社に先駆けて実績を重ねてきた一方、IaaS/PaaS市場への参入は10数年遅れ、現在のポジションを確立するまでには苦労があったと三澤氏。IaaSのOracle Cloud Infrastructure(OCI)は後発だからこそ、最新技術の取り込みなどを通じて「競合他社とはまるで違った方向で進化している」(三澤氏)という。

 独自性を端的に表すのがマルチクラウド戦略だ。米マイクロソフトとの協業により、OCIとMicrosoft Azureの両データセンターの相互接続や、AzureのデータセンターからOCIを介して低遅延のデータベースサービスなどを提供済みだ(関連記事「Azureから使えるOracle DBを“ファーストパーティ”体制で届ける」─マイクロソフトとオラクルがマルチクラウドで提携拡大)。米グーグルのGoogle Cloud Platform(GCP)との相互接続も可能で、今後はGCPのデータセンターからのOCIの提供も計画しているという。

 三澤氏によれば、最近のクラウドのトレンドは「大は小を兼ねない」である。「地政学的リスクの増大などを背景に、データ主権やソブリンクラウドへの関心が高まり、パブリッククラウドでは満たせないニーズが増えている」(同氏)。国内におけるガバメントクラウドの本格的な実装が2024年度末ごろから始まるとした。

 これらを踏まえ、日本オラクルの2025年度の重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」「顧客のためのAIを推進」の2点を掲げている。これらは2024年度と同一のものだ(関連記事「後発の強みで、日本の顧客のためのクラウドとAIを届ける」─日本オラクル)。

 まったく同じ重点施策を継続することについて三澤氏は、「前年度にそれなりの成果を上げた」と評価しながらも、「根づかせるには時間が必要。今年は本格的な普及の年になる」と述べ、さらなる注力への意気込みを示した。

レジリエンスを阻む“塩漬け問題”の解消に注力

 三澤氏は、2025年度も「日本のためのクラウドを提供」することに引き続き取り組むとし、4つの施策について説明した。

●レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上
●顧客/パートナー向け専用クラウドの提供
●ガバメントクラウド移行の推進
●クラウドネイティブSaaSの普及による経営基盤の強化

レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上

 サイバー攻撃の脅威が増大するなか、セキュリティ施策の巧拙は企業の事業継続性を左右する重要課題となっている。三澤氏は、「パッチやアップデートの適用、アップグレード、設定ミスの検知などの徹底がセキュリティリスクの低減につながるが、経営に直結する基幹業務システムでは特に重要である」と強調した。

 一方で、基幹システムや業務アプリケーションの運用においては、安定性を優先するなどして旧バージョンのまま「塩漬け」にして使うという考え方が今なお残っており、システムのレジリエンスを高めるうえでの障害となり、企業の競争力を削ぐ要因もなりかねないと指摘。「モダナイゼーションに取り組んで塩漬け問題を解消していくことは、今後、必須の考え方になる」(三澤氏)。

 そして、基幹システムのOCIへの移行で得られるメリットとして、単一基盤への移行によるシステム構成の簡素化や、テスト環境を容易に構築可能なことによる開発プロジェクトの迅速化を、定期的なパッチ/アップデートの適用と合わせて挙げた(図1)。

図1:モダナイゼーションによるセキュリティの向上(出典:日本オラクル)
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 また、基幹システムのモダナイゼーションにおいて、新たな課題が浮上している。VMware仮想化環境の移行だ。米ブロードコム(Broadcom)による米ヴイエムウェアの買収後、VMwareのライセンス/サポート費用が引き上げられた問題だ。ここからユーザーの間で“脱VMware”の声が高まっている(関連記事米ブロードコムによる米ヴイエムウェアの買収が完了、ソフトウェア事業をVMwareブランドに統合)。

 この問題について三澤氏は、「基幹システムを支えるアーキテクチャの切り替えはそう簡単ではない」とし、“続VMware”を支援する意思を示した。例えば、「Oracle Cloud VMware Solution」については複数年にわたり価格を固定する。また、他社のサービスと異なり、顧客やパートナーが管理者権限を持てる点が基幹システムに最適であるとアピールした(図2)。

図2:Oracle Cloud VMware Solutionの特徴(出典:日本オラクル)
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顧客/パートナー向け専用クラウドの提供

 データ主権の考え方の下、ソブリンクラウド(Sovereign Cloud:主権クラウド)へのニーズが高まっている。オラクルは以前から顧客専用のクラウド環境「OCI Dedicated Region」や、パートナー専用のクラウド環境「Oracle Alloy」を展開してきたが、最近これらへの需要が増加傾向にあるという。

 Oracle Alloyはすでに野村総合研究所のデータセンターで稼働しているほか、2024年4月には富士通とソブリンクラウド提供に関する協業を発表し、2025年4月のカットオーバーを目指してデータセンターを建設中である(関連記事富士通、Oracle Alloyによる“ソブリンクラウド”を2025年度に国内提供)。

ガバメントクラウド移行の推進

 ガバメントクラウドの本格実装は2024年度末から始まる見込みで、多くの自治体が移行を検討しているという。三澤氏は、OCIを採用して基幹システムの移行を開始した和歌山市の事例を紹介。自治体向けパッケージを提供しているベンダーの支援などを通じて、プラットフォームベンダーとしてガバメントクラウドへの移行の流れを後押ししたいとした(関連記事和歌山市、住民情報系システムをOCI上のガバメントクラウドに移行)。

クラウドネイティブSaaSの普及による経営基盤の強化

 企業規模や業種を問わず、SaaSの導入はもはや当たり前になっていると三澤氏。すでに多くの企業が「Oracle Fusion Cloud Applications」のSaaS群を利用していることを強調した(図3)。また、中小企業や新興企業の基幹システムを担うクラウドERP「Oracle NetSuite」の導入も拡大しているとし、「パートナーのさらなる拡大に注力していく」(三澤氏)と語った。

図3:Oracle Fusion Cloud Applicationsの採用が拡大(出典:日本オラクル)
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●Next:生成AI活用の”肝”、顧客固有のデータ活用を支援

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