[技術解説]

「アジリティは不確実な時代の生存戦略」─“新しいSAP”が示す企業変革の道筋

2025年9月29日(月)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

不確実・不安定が続く世界情勢の中で、大手・伝統や新興を問わず、策がなければ事業継続の危機に陥ってしまう。基幹業務をはじめとする業務システム/アプリケーション市場を牽引してきた独SAPは現在、「スイートファースト、AIファースト」という新ビジョンを掲げて、企業がアジリティを獲得し、事業継続を維持し成長するための支援を強化している。旗艦イベントの「SAP Sapphire 2025」でなされた発表を中心に、現在のSAPの戦略・技術・製品と、トランスフォーメーションに向かう顧客企業が得られるベネフィットを探る。

「スイートファースト、AIファースト」に注力する“新しいSAP”

 地政学的紛争や経済的不安定性、さらには気候変動・環境問題と、近年の世界情勢は不確実性・不安定性が常態化している。独SAPとしては、「世界の総商取引額(Transaction Revenue)の77%が、何らかの形でSAPのシステムに触れている」(同社)という状況の中で、同社の顧客が今の時代にいかにして事業を継続し、成長を遂げるか、それらをどう支援するかが最大の焦点となっている。

 不確実性や不安定性に対するSAPの提案はアジリティ(俊敏性)である。「もはやアジリティは選択肢ではなく、生き残りに不可欠な戦略だ」と、同社のエグゼクティブボードメンバーでカスタマーサービス&デリバリーを統括するトーマス・ザウアーエシッヒ(Thomas Saueressig)氏(写真1)は断言する。

写真1:独SAP エグゼクティブボードメンバー カスタマーサービス&デリバリー統括のトーマス・ザウアーエシッヒ氏

 どんな製品をもって顧客のアジリティを支援するのか。SAPが2025年2月にリリースした「SAP Business Data Cloud」と「SAP Business Suite」は、アジリティの確立を強く意識したプラットフォーム/スイート製品だ。

 Business Data Cloudは、SAPとそれ以外のデータを集約し、統合管理するデータプラットフォームである。単にデータを集約・格納するだけでなく、業務で活用しやすい形でデータを整備する。データから洞察を得てアクションにつなげるための、事前定義済みのダッシュボードテンプレートも提供する(図1)。

図1:「SAP Business Data Cloud」の概要と構成要素(出典:SAPジャパン)
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 Business Suiteは、企業経営の根幹を担うERP、財務、SCM(サプライチェーン管理)、人事、調達、顧客体験管理の各SaaSをパッケージ化したスイートである。基盤に、開発環境の「SAP Business Technology Platform(BTP)」とデータ基盤のBusiness Data Cloudが位置づけられ、AIプラットフォームの「SAP Business AI」がフロントのインタフェースとなる(図2)。

図2:「SAP Business Suite」の全体構成図。ほぼSAPの製品ポートフォリオに等しい。
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 2025年1月、SAPは「スイートファースト、AIファースト」という新ビジョンを打ち出した。Business SuiteやBusiness Data Cloudの投入をはじめ刷新された製品ポートフォリオ=“新しいSAP”として、顧客の取り組みを支援するという。

●Next:Fit to Suiteへ──システム構築のメソドロジーが進化

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