[「人間中心のAI」で企業変革を加速する─生成AIの進化・活用のこれから]

AIが招く認知努力の低下、「AI浅慮」─その対策とAI時代に本当に問われる力とは?:第14回

2026年8月21日(金)森 正弥(博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO, Human-Centered AI Institute 代表)

AI技術は日々進化を遂げ、社会実装が現実の段階に入っているが、多くの企業ではまだ部分的な活用にとどまり、AIに対する脅威感や不安が依然として存在する。「人間中心のAI活用」を推進するためにはどうすればよいか。本連載では、具体的なアプローチを交えながら、企業がAIをどのように向き合い、活用し、未来の成長に役立てていくかを考察していく。第14回は、AIによって引き起こされる認知努力の低下、すなわち「AI浅慮」の問題と、その対策について解説する。

 

「AI浅慮」とは何か──広がる認知努力の低下

 AIを活用するほど、人間の認知努力(情報の理解や判断に用いる精神的な労力)が低下することが、複数の研究機関から相次いで報告されている。米マイクロソフトと米ガートナーの共同研究では、人はAIが示す網羅的な回答を見ることで、十分に分析したという錯覚が生じ、検討や修正を経ずにそのままアウトプットとして使ってしまう傾向があると指摘されている。MIT Media Labも脳波分析研究から「AIへの依存が脳活動の停滞と集中力・意欲の低下を招く」と報告しており、米Anthropic(アンソロピック)も150万件以上の対話データ分析から、「AIを使うことによるユーザーの無気力化の実態」をレベル別に示している。

 最近では「AIによるブレインフライ(Brain Fry)」という概念も注目を集めている。これは、AIの大量出力を受け続けることで思考回路そのものが疲弊・麻痺していく状態を指す。AIの出力により人間が疲弊し、結果としてユーザーの認知努力の低下も加速してしまう。

 本稿では、こうしたAIによる人間の認知努力の低下現象を「AI浅慮(AI Shallow Thinking)」と定義する。この現象は社会心理学者アーヴィング・ジャニス(Irving Janis)が提唱した「集団的浅慮(Group Think)」に類似するものである。集団的浅慮は、集団で議論するほど人は深く考えなくなる現象を指す言葉であるが、AI浅慮は、集団ではなく個人が1人でAIと向き合うときにも生じる、より厄介なものだ。

 AI活用が全社・全業務に広がるにつれ、この現象は組織規模、さらには社会規模での認知努力低下につながる可能性がある。高度な専門性や安全性が求められる業務、あるいは大規模な意思決定を担う階層においては、その影響は致命的なレベルに達しうる。

AI浅慮を防ぐための4つの対策

 では具体的にAI浅慮を防ぐためにどのような対策ができるか。個人レベルの対策としては、主に4つのアプローチが有効だ(図1)。

図1:「AI浅慮」と「考える」対策(出典:Human-Centered AI Institute)
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 第一に、AIに複数案を出させ、人間が選ぶ構造にすること。案が1つでは前提や欠落に気づきにくく、受け入れのハードルも下がる。「他の案も出して」「まったく別の角度から考えて」と追加で促し、比較可能な状態を意図的につくることで、思考の主体性を保つ。

 第二に、アウトプットに付加価値をつけるための作業を、意識して自分側で引き受けること。一次データの確認、自社固有の文脈や経験値の付加、反証可能な条件の明示など、AIが苦手とする固有性・具体性を人間が補う。

 第三に、逆にAIに負荷をかけることで、自分の認知的刺激を引き出すこと。AIを追い込む過程で人間側の思考が起動するというアプローチだ。AIと人間の批判的な応酬は、AIの回答をただ受け取るだけの状態から、自分の思考をより動かす状態へ戻す助けになる。

 第四に、複数のAIを組み合わせ、多角的に検証すること。あるAIの出力を別のAIに批判・検証させ、人間が審判として論点を評価する構造にする。対立する見方が並ぶことで、どこが弱点でどこが争点かが見えやすくなる。

 これらの対策はリスクベースで優先度をつけ、影響の大きい領域から仕組み化・システム化して運用していくべきだろう。

●Next:複数アプローチを切り替える豊かな視点の構築、最終的に人間に問われる力とは?

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