日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、JTB 常務執行役員 CIO/CISOでCIO Lounge正会員メンバーの黒田恭司氏からのメッセージである。
プロジェクト成功のカギは、意識の全体共有にある
JTBは現在、基幹システム刷新やインフラのモダナイゼーション、データ活用基盤の強化など、多くの大型プロジェクトを進めています。その中で私が最も重視しているのは「なぜそれを行うのか」という目的を、常に組織全体で共有することです。時間の経過とともに目的への意識は薄れ、QCDへの意識ばかりが強まるのが常です。それでは変革プロジェクトは上手くいきません。変革の目的を理解し、自分事として捉えてもらうことこそが成功のカギだからです。
そのための施策として、JTBではIT部門だけで計画を策定するのではなく、事業部門のメンバーと議論を重ねながら、将来の業務や顧客体験のあるべき姿を描くことに力を入れています。時には現場との認識の違いや、変化を不安視する声に直面することもあります。しかし対話を繰り返し、一人ひとりが変革の意義を理解することで、プロジェクトは単なるシステム導入ではなく、組織全体の挑戦へと変わっていくと考えています。
AIの変化に適応できる組織になるために
一方、最近では生成AIの急速な進化により、企業を取り巻く環境が大きく変わり始めています。読者の皆様も同じだと思いますが、私は生成AIを効率化のツールではなく、人の能力を拡張し、新しい価値創造を可能にするパートナーであると考えています。この技術にはそれほどのインパクトがあります。
しかし当然ですが、AIを導入すれば自動的に競争力が向上するわけではありません。経営層はAIがもたらす変化の方向性を示し、社員一人ひとりはAIと共に働く未来を主体的に考えて行動しなければなりません。これまで以上に「変化に適応できる組織」と「変化を避ける組織」の差が拡大し、人の面でも「AIを使う人」と「AIに仕事を奪われる人」の違いが顕著になると考えられるからです。
私見ですが、CIOの役割も大きく変わっていると思います。以前は情報システムの責任者としての役割が中心でした。現在は、経営戦略を実現するための変革リーダーであることが求められています。技術を理解するだけでなく、事業を理解し、人を動かし、組織文化を変えていくことがこれからのCIOのミッションです。
最後に、私がこれまでのキャリアを通じて大切にしてきた言葉があります。それが本記事のタイトルにした、「変革の主語はシステムではなく、人である」です。どれほど優れた技術であっても、活かすのは人です。変化を恐れず挑戦する人がいて、初めて変革は実現します。これからもCIO/CISOとして、そして一人の変革推進者として、人とテクノロジーをつなぎながら、新しい価値創造に挑戦していきたいと思います。
●筆者プロフィール
黒田恭司(くろだ きょうじ)氏
JTB 常務執行役員 兼 CIO 兼 CISO デジタルトランスフォーメーション推進担当。1992年日本IBMへ入社。ITエンジニアとして官公庁を担当し、グループリーダーやプロジェクトマネージャー、統括プロジェクトマネージャーを歴任。その後、デリバリー品質マネジメント、コロナ禍の働き方変革リード、全社リスキリングのリーダー、Hybrid Cloud事業のサービス部門のビジネス責任者などを担ってきた。2023年から現職。趣味はゴルフ、釣り。
※当コラムはCIO LoungeのWebサイトにも同時に掲載しています。
特定非営利活動法人 CIO Lounge
https://www.ciolounge.org/
「急速に変化・進展しているIoTやAIなどの先端ICTをいかに経営に取り込み、企業活動を伸長させるか?」──NPO法人CIO Loungeは、大手企業でCIO/IT部門責任者としてこれらの課題に先進的に対応してきたメンバーが集うコミュニティである。各人の経験・知見をもって、現役の経営層/CIO/IT部門責任者の相談/討論の相手となり、解決への糸口を探る。各企業へのコンサルティング/各種セミナー開催・次世代CIO育成等さまざまな活動を通じて、デジタル社会の発展や最新ICT活用の普及に貢献することである。
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