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[ザ・プロジェクト]

複雑な金融事務を“ルールエンジン”で処理、文書イメージのワークフローで効率化も達成─東京海上日動システムズ

2010年10月21日(木)川上 潤司(IT Leaders編集部)

書類の記載漏れや間違い、添付すべき文書の不足に押印忘れ─。法制度も絡む401kの申請処理を効率化するため、東京海上日動システムズは「ルールベース管理システム」を採用。業務品質の均一化と効率化を両立させた。今回はそのシステムの開発担当者に、プロジェクトの全容を聞く。 聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉

佐藤 元紀 氏
佐藤元紀氏
東京海上日動システムズ ソリューションプロデューサ 営業・代理店ソリューション本部 マルチチャネルデザイン部
1993年4月、東京海上火災保険に入社。営業を経て2000年7月にIT企画部へ異動し、主に保険代理店のIT活用支援を担当する。2005年8月、東京海上日動システムズへ出向して積立傷害保険システムの開発に携わる。翌年6月に401kシステム専任となり、401k関連システムの開発に従事する。2010年6月より現職

 

酒匂 秀敏 氏
酒匂秀敏氏
ブレイズ・コンサルティング 代表取締役
商社で米国製コンピュータ機器の国内OEM販売などを手掛けた後、1991年に人工知能ソフト会社である米ニューロン・データの日本法人を設立。以来、約20年にわたってルールベース管理システム(RBMS)事業に従事している。2002年にブレイズ・コンサルティングを設立し、RBMSを活用した業務システムのコンサルティング事業を展開している

 

─ 人による判断を支援する「ルールベース管理システム(RBMS)」を活用したシステムを構築したそうですね。RBMSを業務に活用したケースはほとんど聞かないのですが、まずどんな業務のためのシステムかを教えて下さい。

佐藤:当社(本誌注:東京海上日動システムズの親会社である東京海上日動火災保険)が手掛けている確定拠出年金、いわゆる「401k」の事業で利用しています。

─ 投資信託や債券を組みわせながら自己責任で年金資金を運用するやつですね。

佐藤:はい。当社は販売会社と運営管理会社という、大きく2つの側面で401kに関わる事業を行っています。前者は運用ポートフォリオを組むための商品を開発して販売する、そして後者は年金を運営する企業や基金から事務作業を受託したり、お客様が自らポートフォリオを設計できるように元本確保型やハイリスク・ハイリターン型の商品をバランスよく組み入れたりする作業を担っているんですよ。今回、開発したのは後者の、年金事務の運営管理のためのシステムです。

─ えー、ちょっと分かりにくいですが(笑)、要するに年金の申請を受け付けて、適切に管理する業務なんですよね?

佐藤:そういえばそうなんですが、おかげさまでお客様が増えてきたものですから、申請受付の現場が大変なことになってきたんです。

─ というと。

複数機関を書類が往来する複雑な事務処理フロー

佐藤:401kには企業が導入して従業員の掛け金を負担する「企業型」と、国民年金基金が加入者の個人事業主を対象に提供する「個人型」があります。当社は特に個人型に力を入れていて、現在、加入者は5万件を超えて業界トップなのですが、事務作業を担う当社グループの運営管理会社、TMO(東京海上日動事務アウトソーシング)の支援体制が整っていませんでした。

─ 年金事務って、そんなに大変?

佐藤:個人型401kの事務はまず、複写式の加入申請書類がTMOに郵送されるところから始まります。仙台にあるTMOの事務センターではスタッフが書類を精査し、不備がなければNRK(日本レコード・キーピング・ネットワーク)と呼ぶ年金加入記録の管理会社と、国民年金基金のそれぞれに所定のページを送付。国民年金基金は、滞納がないかなど加入者の状況を確認し、結果をNRKに送ります。NRKではその情報と、TMOから受け取った書類を照合して年金の管理業務を始めます。

─ 確かにややこしいですね。NRKのような会社が必要な理由は何ですか。

佐藤:NRKの業務は金融商品の約定結果やポートフォリオの変更履歴などを管理する、文字通り年金レコードのキーピングです。当社のような運営管理会社から、この業務を受託しているんですよ。運営管理会社が個別にやると効率が悪いという面もあります。

記載漏れや判読不明など書類の5割以上に不備

東京海上日動火災保険が確定拠出年金(401k)専用サイトで公開している制度説明ページ 東京海上日動火災保険が確定拠出年金(401k)専用サイトで公開している制度説明ページ

─ 流れが複雑なのは分かりましたが、申請書類の確認などは御社にとって日常的な業務でしょう。

佐藤:実はTMOに届く書類の不備率が非常に高いのです。要するに書類の記載漏れや書き間違いが多い。住所を1つとってみても、漢字の記載はあっても、フリガナが書いていないケースが多いんです。

─ フリガナくらいは、たいした問題ではないのでは?

佐藤:いえ、100%正しく記載された書類でないと、受け付けできません。ほかにも、お客様がポートフォリオに応じてご自身でプランを選び、「投資信託が30%」「外国債券が25%」と割合を決めていくのですが、合計が100%にならないようなケースもあります。

─ 国民年金基金がお役所仕事で作った書類に問題がある。

佐藤:そうとは言い切れません。そもそも年金のポートフォリオを考える機会などほとんどないから、正しく記入すること自体、ハードルが高いのですよ。

─ 不備率はどの程度?

佐藤:当初は8割といわれていました。

─ 正しい書類が2割しかない!

佐藤:もっとも書類の工夫などによって、徐々に改善されてきました。最近では、5割前後といったところですね。書き間違いや記載漏れだけでなく、判読不明という不備もあります。

─ 書いてはあるけど、字が読めない。

佐藤:0か6か分からないといった類です。

─ やっかいですね…。

蓄積する事務処理と避けられない情報リスク

佐藤:不備の内容によっては、書類をお戻しして訂正印をいただく必要があります。返送分の事務処理は日々累積していきますし、返送書類のコピーと添付書類などを一緒にTMOで保管するので、情報漏えいリスクを抱えることにもなる。当然、どうやって管理や処理の効率を高めるかという課題が出てくるわけです。

─ 本題のシステムの話になかなか入れませんが(笑)、例えばコピーを取らずに書類を丸ごと送り返す手はないですか? そうすれば返送分の事務処理や情報漏えいリスクを、TMO側で気にしなくて済む。

佐藤:ええ、当初は全部お戻ししていました。不備がある部分すべてに「押印してください」や、「加入申出者氏名(フリガナ)をご記入ください」などと記した付箋を手作業で張って送るんです。しかし戻ってきたときに記載の不備は直っているけど添付書類が抜けているなんてことがあって、結果として何回も書類のやり取りが発生してしまうんですよ。

─ 実に悩ましい。

佐藤:「そんなバカなことがあるのか」と思うでしょう? 正直なところ、私も最初はそう感じましたが、現実です。

─ それで、どう対処していたんですか。

佐藤:当初はMicrosoft Accessで受付台帳を作っていました。2005年末頃のことです。これは書類の受付・返送・再受付といった状況に加え、不備があった項目などを1件ずつ、手作業で入力して管理するもので、申請件数が少なかった頃は何とかなったかもしませんが、1日あたり100件以上の書類が届くようになって、限界が出てきた。同時に、いよいよ年金給付が始まるようになると事務の負荷はいっそう高まります。システム化による抜本的な業務の効率化が避けられない状況になったということです。

工場の生産ラインを想定しイメージワークフロー導入

─ それはいつ頃のこと?

佐藤:AsIs分析とToBe分析の後、正式にプロジェクトが発足したのは2007年4月です。

─ ここまでのお話を考えると、事務処理のシステム化といっても一筋縄ではいかない気がします。

佐藤:ややこしいので、最初は作りたくありませんでした(笑)。

─ 私も佐藤さんの立場だったら、「自分は関係ありません」と言いたい(笑)。そんな気持ちを抑えて、どんなシステムを作ったのですか。

佐藤:最初は、書類の所在を正確に追跡するトレーシングシステムを導入しようと考えました。書類を入れたフォルダにRFIDをつけて管理するような仕組みです。Aさんが処理を終えたらRFIDの情報を読み取り、次のBさんが済んだらまた読み取る。そうすれば事務処理の流れと書類の所在を管理できます。

─ 工場の工程間で次々と部品をハンドリングしていくように物理的な書類を管理する。

佐藤:まさしく工場のラインの感覚です。ところが物理的な書類のトレーシングだけでは万全でないことが分かってきました。

─ また「ところが」ですか。何があったんです?

佐藤:TMOのコールセンターを東京・池袋に置いているんですが、そこにお客様から問い合わせがあった際、仙台の事務センターが管理する書類を確認しなければならないケースがあるんです。しかし、仙台と池袋で書類を流通させるのはリスクがあります。加えて受付台帳へのデータ入力を省力化したいという強い要望も、新たに出てきました。

─ 保険会社では書類のスキャンとOCR(光学式文字読取装置)を使って、契約書類や申請書類を処理していますね。

佐藤:そうです。OCRを使ったイメージのワークフローによる事務処理システムを開発することにしました。といっても単にイメージを回覧したり、承認するシステムではありません。TMOの事務は1つひとつが丁寧だったので、システムに人が合わせるのではなく、人の作業にシステムを合わせる方針を定めました。

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